「映像のミエカタDIY」は当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。今回、そして次回では「映画はいつまでも待っている|どうしてリマスターが必要なの?」と題して、過去の映画作品のリマスターについて取り上げます。
近年、名作といわれる映画作品の4Kリマスター版の制作が国際映画祭の目玉になることや、劇場公開で注目を集めることが非常に多くなりました。2023年のヴェネチィア国際映画祭にて最優秀復元映画賞を受賞した相米慎二監督作品『お引越し』への世界的な注目もその一例に挙げることができます。
上の比較映像を見るとリマスターの効果がとてもよくわかります。このようなリマスター版への注目は、視聴環境の高解像度化への対応、動画配信プラットフォームで旧作に触れる機会の増加といった産業的な需要と、フィルムメディアの経年劣化から歴史的な映像作品を守るためのアーカイブ制作という文化的な側面、そして作家の意図に添った形で作品の映像や音声の部分でポテンシャルを引き出すという芸術的側面が関係していると理解しています。今回はまず産業的な側面についてから触れていきます。
視聴環境の高解像度化でDVDは置いていかれる?
視聴環境の高解像度化は、視聴体験をよりよいものにする一方で、過去の視聴環境に準拠した映像作品の視聴を難しくすることになっています。たとえばアナログ放送の規格に対応したSD(480p)サイズの映像が収録されているDVDは、現在主流になっているフルHD(1080p)や4K(2160p)のモニターやテレビ上では解像度が足りずに非常に粗い映像として再生されることになります(4KはSDの約16倍のサイズ)。
DVDが主流だったゼロ年代にソフト化された映像作品は現在このような視聴環境の変化に直面しており、動画配信プラットフォームでもSDサイズのまま取り扱われていることが多くあります。作品の価値を守るためにも現行の視聴環境に適応したリマスター版の必要が高まっていると思われます。
配信プラットフォームの普及が旧作に触れる機会を増やす
アマゾンやNetflixといった動画配信プラットフォームの普及が過去作品へのアクセスを容易なものとしたことが、リマスター化への動きを加速させています。旧作との出会いが映画館での特集上映とソフト化、そしてテレビや映画チャンネルでの放送に限られた時代と比べると、作品と出会う視聴者の数にはとても大きな変化があると言えるでしょう。もしかしたら、パンデミックにより新作映画の制作に大きな制限があったことも、過去作品に対する注目の契機になったのかもしれません(パンデミック中は新作が止まり、劇場では旧作を上映する機会が飛躍的に増えた)。そういったことによる見込みの変化はリマスター版の制作コストに対する認識の変化にも影響を与えているはずです。
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リマスター版の制作はフィルムで制作された映画作品の本来持っていたポテンシャルを引き出すという意味でもとても意義のあることですが、その背景には産業と時代からの要請によって過去作品の取り扱いに対する認識の大きな変化が起きていることは忘れてはならないポイントです。
次回は文化的側面や芸術的な側面からリマスター版について考えてみます。(つづく)