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「映像ミエカタDIY #29:映画『オオカミの家』とストップモーション・アニメーション」【ドリームムービー通信:273号】

「映像ミエカタDIY」は当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。今回は「映画『オオカミの家』とストップモーション・アニメーション」と題して、現在国内で劇場公開されている注目作『オオカミの家』と、そこで用いられているストップモーション・アニメーションという手法や魅力についてご紹介します。

ストップモーション・アニメーションとは
回り続けるカメラの前で被写体の動きを記録することが一般的な映像撮影ですが、ストップモーション・アニメーションは造形物など動きのない被写体に対して一コマずつ動きを加えて撮影をしていくものです。

「アニメーション」という言葉の由来には「生命を吹き込む」という意味があります。動かないものを動きのあるものとして映像で表現する際には、多くの場合コマ撮りが使われていることから、アニメーションとストップモーションはそもそも切り離しがたい言葉ではありますが、現在一般的にはセルアニメに由来する表現(現在はCGが主流)をアニメーションと呼び、それ以外の粘土やパペット等の立体の造形物や、切り絵などの平面での表現などがストップモーション・アニメーションと呼ばれているようです。

歴史的には映画創成期に活躍した映画作家ジョルジ・メリエスなどが映画上の一種魔術/トリック的な表現として使用したことに起源があると言われており、それ以降も実写映画の特殊効果として用いられてきた手法です。

1933年公開の初代『キングコング』は特殊効果が数多く用いられた画期的な映画作品です。そこでもストップモーション・アニメーションは重要な手法として用いられており、実写シーンの合成などはいま見ても感心する出来栄えです。この短い動画の中でも、動かないものを一コマずつ動かして撮影することでその際に生じる揺らぎまでもが映像の快楽となるというこの手法独特の効果を感じることができます。

家/部屋自体がストップモーション・アニメーションで表現のキャンバスとなる『オオカミの家』のユニークな演出

『オオカミの家』(2018年)はチリ出身のアーティスト・デュオであるクリストバル・レオンとホアキン・コシーニャによる初の長編映画です。

宗教的なコロニーから逃げだし、身を隠した森の中の家で2匹の豚と出会った少女マリアの身に起きる出来事を、その家自体が暗く恐ろしい世界へと姿を変える様子と併せて描いた映画です。

この作品のユニークなポイントは、家/部屋(美術館等の実際の部屋やアトリエが使用されているとのこと)がストップモーション・アニメーションを表現するためのキャンバスになっているところです。二次元的な表現も、三次元である部屋の中でそれが表現されることで、視覚的にとても新鮮なものを感じることができます。

部屋の壁として映されていた場所がストップモーション・アニメーションで動くキャンバスとなる。この映像効果は、少女マリアと呼応することで家/部屋自体が恐ろしい生き物(のようなもの)へ変容を描く物語のための見事な演出としても機能しています。

ストップモーション・アニメーションで表現される過程や痕跡の魅力
このアーティスト・デュオによるストップモーション・アニメーションの魅力にはペインティングや造形物の制作の過程もがコマ撮りに含まれている点も挙げられます。

描かれたものが次の動きを表現するために塗りつぶされ、描き足されていく。立体として表現されている人間が移動する場合は、元いた場所から次の動きのポイント移動するために、一度解体され、また作り直される。そういった具合に制作の過程自体もストップモーション・アニメーションの動きとして取り込まれています。

スムーズな動きを表現しようと考えたときに、一般的には省かれる過程の部分までもが作品に表れ、画面の中で常時何かが作り変えられていくという独特の生々しさが記録されることで、物語の悪夢的な状況もより効果的に伝わってきます。

注目作が取り組むチリの歴史
『オオカミの家』の物語の下敷きには、ピノチェト軍事政権下のチリに実在したコミューン「コロニア・ディグニダ」があるとされています。映画自体も、コミューンから逃げ出した少女が森の家で恐ろしい出来事を経験することで、「コミューンが戻るべき家である」と考え直すという、コミューンのプロパガンダ的な体裁で表現することで、歴史の暗部との独特な向き合い方を提示しているようです。

この『オオカミの家』に限らず、「コロニア・ディグニダ」や独裁政権時代の歴史については、近年多くの映画で言及されているようです。コロニアについては、今年日本で公開された『コロニアの子供たち』(2021年)や『コロニア』(2015年)などが、



そして独裁政権については、独裁者であったアウグスト・ピノチェトを250歳の吸血鬼として描いたNetflix制作の注目作『伯爵』も先月公開されたばかりです。


『オオカミの家』のプロパガンダのスタイルや、『伯爵』の吸血鬼などには、映画でこそ可能な歴史との向き合い方が示されているようで大変興味深いです。

映画『オオカミの家』は現在国内の多くのミニシアターで公開されており、配信についてもMUBIにて視聴可能(2023/10/3時点)です。ぜひこの機会にストップモーション・アニメーションの独特な世界を体験してみてはいかがでしょうか。
(了)

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