「映像のミエカタDIY」は当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。
今年の1月、2月は思わず劇場に足を運びたくなるような映画作品が目白押しです。例年この時期はアカデミー賞有力候補作の日本公開が行われるタイミングではありますが、それ以外にも気になる映画作品が多くあります。今回はこの1月、2月の間に観た映画の中から印象的な作品と、今後2月中に公開される注目作品を駆け足で紹介します。
観た映画や観たい映画を並べてみることは、部屋の棚に並ぶ本の背表紙を眺めることに似ています。そこにはそれぞれの作品の関係にとどまらず、自分が何を気にかけて世界を捉えようとしているのかをふり返るための「手作りの地図」のような手応えがあります。それはとても個人的なもので、私にとっては「土地と移動」あるいは「ミッドクライシス」といった言葉が浮かんでくる今回の並びであっても、異なる言葉で結びつける方もいるかもしれません。
映像の「ミエカタ」は映像作品の中で完結しているわけではなく、観る人々が手作りの頼りなくも大切な地図を互いに持ち寄ることで見つけられるものなのかもしれません。そのような柔らかい「ミエカタ」の参考になれば幸いです。
相米慎二監督『お引越し4Kリマスター版』
相米慎二監督による1993年公開作品の4Kリマスター版。素晴らしいリマスターによって蘇った傑作。とても現代的なイシューが取り扱われる日常から『千と千尋の神隠し』につながるようなファンタジーへの接続が素晴らしかったです。
『blur:To The End/ブラー:トゥー・ジ・エンド』&『blur:Live At Wembley Stadium/ブラー:ライヴ・アット・ウェンブリー・スタジアム』
英国を代表するバンドの8年ぶりの再始動を記録したドキュメンタリーと歴史的な公演のコンサートフィルム。50代半ばに差し掛かりお腹も出てきた彼らのバンドとしてのつながりは、長い時間を過ごしたことによる「偶然の家族」といった言葉がぴったりくるようでとても感動的。コンサートフィルムも映画館という平等な音響空間の素晴らしさを改めて確認できる貴重な体験になること間違いなし。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)-Beginning-』
マルチバースを示唆するような「別の」一年戦争とその後の物語について。土地を追われ宇宙に移民するという、ガンダムの時代設定がいかに現代的なものであったかを改めて実感する機会に。
『リアル・ペイン~心の旅~』
ニューヨークに住むジューイッシュのいとこ同士が、亡くなった最愛の祖母の遺言で、彼女が亡命前に暮らしていたポーランドでのツアー旅行に参加するという物語。観る前に想像していたものとは異なり、ミッドクライシスについて思いを巡らすことを迫る作品。その深刻さの一方で、旅映画の魅力(旅行にいきたくなる)もたしかに感じることができます。
『セプテンバー5』
ミュンヘンオリンピック事件を生中継で追うことになった米ABCのスポーツ番組の放送クルーたちについての物語。ほぼ中継ルームの中だけで物語が進むという非常に抑制された演出によって、あくまでも「伝えることの使命と欲望」にフォーカスを合わせているのが印象的。その演出を支える舞台美術や映像のルックも特筆すべきものでした。
『めいとこねこバス』
三鷹の森ジブリ美術館内にある映像展示室「土星座」にて上映されている短編アニメーション。『となりのトトロ』のスピンオフ的な位置にある、宮崎駿監督による2002年の作品。14分にぎっしり詰まった喜びや驚きと少し恐れの表現にただ感服。観客の多様さと劇場の素晴らしさも合わさり素晴らしい映画体験になること間違いなし。
『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』
2/21(金)公開予定。イスラエルによる破壊と占領が今まさに進行している、ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区を記録するパレスチナの青年と彼を支えるイスラエルの青年の活動を2023年10月までに渡って記録したドキュメンタリー。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
2/28(金)公開予定。1960年から1965年のボブ・ディランを取り上げた作品。ディランについての映画といえば、トッド・ヘインズの『アイム・ノット・ゼア』(2007年)が思い浮かびますが、今作も楽しみです。ティモシー・シャラメをはじめ出演者たちが実際に歌い、演奏をしており、先行して公開されているサウンドトラックを聞くとその仕上がりには驚くばかりです。
(了)