お知らせInformations

TOP > > メルマガ > 映像ミエカタDIY #53:ルイジ・ギッリの写真作品、「見ているもの」と見えているもの」の邂逅【ドリームムービー通信:371号】

映像ミエカタDIY #53:ルイジ・ギッリの写真作品、「見ているもの」と見えているもの」の邂逅【ドリームムービー通信:371号】


「映像ミエカタDIY」は、当たり前のように受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら改めてその面白さを確認していくシリーズです。今回はイタリア出身の写真家ルイジ・ギッリの写真作品を取り上げます。

現在、東京都写真美術館では総合会館30周年記念として「ルイジ・ギッリ 終わらない風景」展が開催されており(9/28まで!)、1970年代から晩年に至るまでのギッリの作品から風景表現を中心に紹介されています。

展覧会風景:筆者撮影
個人的にはルイジ・ギッリといえば、『モランディのアトリエ』シリーズ(国内では須賀敦子全集の表紙写真として採用されていることでも知られています)の印象が強かったのですが、この展覧会を見ることで彼の長年の取り組みの中でシリーズを捉え直すことができたのはとても素晴らしい機会でした。

風景を平面的に捉えることで、「見ているもの」と「見えているもの」の区別がなくなった姿の世界と出会い直す。これまでにも様々な写真家がそのような取り組みを行なってきましたが、ギッリ作品には極めて日常的な距離感にそのような厳密な取り組みを持ち込むことによって生まれた独特なユーモアがあります。

この上品なユーモアとハードコアな写真行為、その両方を堪能できる展覧会は会期終了間近(今週末9月28日)となっています。ぜひこの機会に、写真を通して世界を見ることについて体験してみてはいかがでしょうか?

 

写真家 ルイジ・ギッリの世界観:ありふれた日常に潜む「詩」を見つけ出す
イタリアを代表する写真家、ルイジ・ギッリ(1943-1992)。彼は、観光名所のような特別な場所ではなく、私たちの身の回りにある何気ない風景やモノを独自の視点で捉え、見る人の記憶や想像力を刺激する作品を数多く残しました。

ルイジ・ギッリの生涯と作品の変遷
ギッリは元々測量士として働いており、その経験は、写真における「空間」や「距離」に対する鋭い感覚を養いました。1970年代から本格的に写真制作に取り組み始め、1978年には代表作となる写真集『コダクローム』を出版。写真家としての活動に加え、キュレーターやライターとしても多岐にわたる活躍を見せました。

彼の晩年の重要な仕事に、画家ジョルジョ・モランディの死後、彼のアトリエを撮影したシリーズ『モランディのアトリエ』があります。 このシリーズでは、モランディが実際に描いたオブジェや家具、日常の痕跡を捉えることで、画家自身の存在や記憶、そしてその空間の「詩情」を写し出しました。この作品は、風景の中に潜む人々の物語や歴史を探求する彼の姿勢を象徴しています。

ルイジ・ギッリの作品を読み解く3つの視点
1. あいまいな遠近感が生み出す「平面性」
一般的な写真が、背景をぼかすことで被写体を際立たせるのに対し、ギッリは手前から奥まで全体にピントが合った「平面的な表現」を好みました。この手法によって、風景はまるで舞台の書き割りのように見え、遠近感が曖昧になります。風景の中のすべての要素が等価に並べられることで、見る人はどこに焦点を当てるべきか迷い、それが結果的に作品への深い没入感を生み出すのです。

2. 「写真の中の写真」というメタな視点
ギッリは、壁に貼られたポスターや額縁に入った絵画、看板など、「写真の中に存在する別のイメージ」を頻繁に撮影しました。これらの作品は、現実と虚構、オリジナルと複製といった境界を曖昧にし、写真というメディアそのものが持つ「曖昧さ」を浮き彫りにします。それは、写真が単なる現実の写しではなく、情報やコンテクストを再構築する装置であるという、彼の思想を物語っています。

3. 日常の中に潜む「美学」と「ユーモア」
彼の作品の魅力は、何気ない日常の風景の中に潜む「美学」や「ユーモア」を見つけ出す才能にあります。例えば、タイルに描かれた地図の上を歩く人の足、木漏れ日がスクリーンに映し出される一瞬。彼は、そのような一見すると取るに足らない瞬間を捉えることで、私たちが見慣れた世界に新たな意味や物語を与えました。

写真が「地図」や「設計図」になるとき
「私は写真を作りたかったのではなく、写真であると同時に地図や設計図を作りたかったのです」

ギッリのこの言葉は、彼の写真家としての活動の核心を突いています。彼にとって、写真は単なる記録ではなく、時間や空間、そして記憶という目に見えないものを視覚化するためのツールでした。彼の作品は、私たちが日々の生活の中で見過ごしがちな小さな事象に光を当て、世界を再発見するための「地図」や、私たち自身の「心の風景」を描き出すための「設計図」のような役割を果たしていると言えるでしょう。(了)

*この記事は、写真家ルイジ・ギッリに関する公開情報(写真集、展覧会カタログ、関連書籍、関連サイト)を基に、その作品の特徴をまとめたものです。

最新のお知らせ

2025_09_29
2025_09_24
メルマガ映像ミエカタDIY
2025_09_16
メルマガ映像制作Tips
映像制作Tips#28「【生成AI】Google Gemini nano banana其の2」【ドリームムービー通信:第370号】 今回も映像制作Tipsをお伝えします。ネットで話題になってい(...)
2025_09_09
メルマガ映像制作Tips
2025_09_02
お役立ち情報メルマガ