今回から不定期で始まる「映像のミエカタDIY」は、当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、DIY(Do it yourself→自分でやってみよう!)を合言葉に、リモートワークの環境下で身近なものを素材として取り上げながら、改めてその面白さを確認していくコンテンツです。
<映像表現と方法、そして言葉>
第1回目の今回は「9時から12時を1分で眺める」と題し、映像の早回しを紹介します。
しかし、「一定時間の雲の動きを早回しする」と言ってしまうと、最早それ以上のニュアンスはなかなか伝わりません。
ここで強調することは「早回し」ではなく、あくまでも「9時から12時を1分で眺める」という表現/目的が第一にあり、そのために数ある方法の中から早回しを使う、ということが大切になってきます。
映像表現→9時から12時を1分で眺める
方法→180倍の早回しをする
映像とそれに付き添う言葉の関係に注意を払いながら、「映像のミエカタDIY」を進めていこうと思います。
<雲は動いているのか?>
もちろん!雲は風に吹かれて移動して、その形には完全に同じものはありません。
しかし、余程の強風と劇的な日差し等の条件がないと実際にそれを強く体感することは難しいものです。
「ササササと日が翳(かげ)る。風景の顔色が見る見る変わってゆく。」
文学に目を移すと、梶井基次郎は短編小説「城のある街にて」(https://bit.ly/3pojsYI)で、物語の舞台である松阪の城跡から伊勢湾を望む風景を描写しながら、風によって日差しと影(この場合は雲ではなく汽車の煙ですが)に刻一刻と変化が起こることを、上記の秀逸なフレーズで表現しています。
絶え間ない変化ではあるけれど、じっと見ていてもなかなかその変化を認識出来ない。そういった現象に対して映像はどのように向かい合えるのか。
今回はシンプルに早回しをすることにより、それを認識し易い状態にしてみました。
<映像の流れる時間、現実に進む時間>
実際に現実で進む時間と、映像として流れる時間との関わり合いについては、早回しとスロー再生に限らず、様々な取り組みが行われています。
例えば映画の世界では、劇映画の上映時間と劇中で進む時間が、ぴったりと重なり合うスタイルの作品があります。『5時から7時のクレオ』(https://bit.ly/2SWz1KI)、『ビフォア・サンセット』(https://bit.ly/34IuFK2)などがその代表例として挙げられます。
それぞれの作品は物語内での「登場人物たちに残された時間の少なさ」を、2時間足らずという映画の上映時間の枠を上手に活かしながら表現しています。
対照的にドラマシリーズの『24』(https://imdb.to/3wXSOZh)は1話で1時間、1シーズン24話で1日の出来事を描くという完全なリアルタイムサスペンスとして注目を浴びました。
一方で、現代アートの作家ダグラス・ゴードンは『24時間サイコ』(https://bit.ly/3ijTNPr)と名付けた、アルフレッド・ヒッチコック監督の代表作の「サイコ」(https://bit.ly/3g4uj5R)を24時間の長さに引き延ばした映像を自身の作品として発表しています。映像体験についての映像作品という観点からも、90年代における映画についての現代美術の取り組みの代表作として挙げられる作品です。
雲の動きを表現するにも、表現と方法の組み合わせは無数に存在しています。
今回は「9時から12時を1分で眺める」ということで、3時間分の雲の動きを早回しで1分の映像として表現してみましたが、もし3時間の雲の動きをそのまま3時間の映像で表現して、視聴環境や展示環境のデザインを含めてコントロールできれば、「微細な変化が絶えず起こり続けている」ことを力強く示す作品になる可能性もあります。
皆さまも身近な空の雲の動きを記録して、それぞれの方法で映像を楽しんでみてはいかがでしょうか?
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「映像のミエカタDIY」では今後も日常的なモチーフから映像の効果、そして映像表現と方法の組み合わせについても考えていきたいと思っています。お読みいただく皆さまの映像の取り組みの参考になりますと幸いです。