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「映像ミエカタDIY #30:ストップモーション・アニメーションの手作業とぎこちなさ」【ドリームムービー通信:274号】

「映像ミエカタDIY」は当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。今回は「ストップモーション・アニメーションの手作業とぎこちなさ」と題して、前回の『オオカミの家』に引き続き、今回はウィリアム・ケントリッジの木炭(チャコール)によるドローイング、そしてユーリ・ノルシュタインの切り絵、それぞれからなるストップモーション・アニメーションについてご紹介します。 2名の作家がどのように特徴的な映像作品に取り組んでいるのか、そのストップモーション・アニメーションの制作の方法について言及している映像に触れつつ取り上げていきます。

ストップモーション・アニメーションとは(おさらい)
回り続けるカメラの前で被写体の動きを記録することが一般的な映像撮影ですが、ストップモーション・アニメーションは造形物など動きのない被写体に対して一コマずつ動きを加えて撮影をしていくものです。

起源は、映画創成期の実写映画上の一種魔術/トリック的な表現あると言われており、それ以降も実写映画の特殊効果として用いられてきた手法です。

「アニメーション」という言葉の由来には「生命を吹き込む」という意味があります。動かないものを動きのあるものとして映像で表現する際には、多くの場合コマ撮りが使われていることから、アニメーションとストップモーションはそもそも切り離しがたい言葉ではありますが、現在一般的にはセルアニメに由来する表現(現在はCGが主流)をアニメーションと呼び、それ以外の粘土やパペット等の立体の造形物や、切り絵などの平面での表現などがストップモーション・アニメーションと呼ばれているようです。

木炭画のストップモーション・アニメーション:ウィリアム・ケントリッジの場合

ウィリアム・ケントリッジ(1955-)は、版画、ドローイング、アニメーション映画等に取り組む南アフリカ出身の現代美術作家です。長いキャリアの中でも主に1990年代(1989-2003)に制作された木炭とパステルのドローイングによる9つのストップモーション・アニメーションが彼の代表的な作品として知られています。

それらの映像作品は政治的、社会的なテーマを自伝的な視点や、直接的ではなく独特な含みを持たせたアプローチで取り扱うことで、民主化以前の時代の南アフリカの多くの人々の生活を反映しています。 制作において特徴的なことは、それぞれの動きを別々の紙に描く「アニメーション」とは対照的に、同じ紙に連続して木炭画を描いていることです。

そこで行われる「描く」と「消す」の繰り返しがコマ撮りで記録されることで、ケントリッジの代名詞となったドローイングの痕跡を残す独特なストップモーション・アニメーションが表現されています。

 

切り絵によるストップモーション・アニメーション:ユーリ・ノルシュタインの場合

ユーリ・ノルシュタイン(1941-)はソ連-ロシア出身の世界的なアニメーション作家として、妻であるフランチェスカ・ヤールブソワが美術監督をつとめる形で、素晴らしい短編映像を作ってきました。代表作には「映像詩」とも形容され高く評価される『話の話』(1979)、そして日本では絵本としても多くの人に親しまれている『霧の中のはりねずみ』(1975)が挙げられます。日本国内ではスタジオジブリの高畑勲、宮崎駿両監督との親交などもあり、ジブリ美術館での展覧会での紹介など、多くの人に知られる作家です。

ノルシュタインは、セルロイドなどを使った切り絵によるストップモーション・アニメーションによってそれぞれの作品を制作しています。私が展覧会で目にした撮影風景の再現では、何層もの透過レイヤーに切り絵を配置して制作していくようでした。とても細かく描かれたそれぞれの切り絵がストップモーション・アニメーションの独特の仕上がりで動き世界はとても印象的です。

2004年以降は作品の発表はなく、1980年代から続けているゴーゴリの短編小説『外套』の制作が行われているとのこと。公開されている制作素材やクリップからは、『外套』がいかに時間をかけて作られているのかが伝わってくるものです。いつか全編を見ることができる日が来ることを願うばかりです。

今回も前回に引き続きストップモーション・アニメーションについて紹介いたしました。ウィリアム・ケントリッジが自身の制作プロセスについて解説する動画を見れば、描いては撮影して、消しては撮影して、また描いては撮影、と気の遠くなるような作業の積み重ねによって独特の映像表現が成り立っていることがわかります。それはノルシュタインの『外套』も同様です。

作業の地道さ、それによって得られるのは「滑らかさ」ではなく独特の「ぎこちなさ」。動こかないものを動かそうとする時に生まれる「ぎこちなさ」に、人間の手作業の重みのようなものを感じることができるのもストップモーション・アニメーションの魅力のひとつなのかもしれません。 (了)

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