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「映像ミエカタDIY #32:音楽を作ることの物語」【ドリームムービー通信:282号】

「映像ミエカタDIY」は当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。今回は「音楽を作ることの物語」と題して、映画音楽について取り上げた前回に引き続き、今年見た映画の中から音楽にまつわる劇映画とドキュメンタリー映画を紹介します。

以前のメルマガで『ザ・ビートルズ: Get Back』を紹介したことがありましたが、音楽を作ることの物語にはいつも特別な興味をもって眺めています。

家でレコードを聴いたり、ライブへ行ったり。私にとっては音楽を聴くということが生活の中でかけがえのないものになってはいるものの、「この音楽はどのように作られたのか」、「バンドで音楽を作って生きていくってどういうことなのだろう」などなど。音楽を作ることについてはわからないことだらけ。

今回は今年見た映画の中からそんな「音楽を作って生きていくこと」の謎に触れることできる作品をいくつかご紹介します。

才能は何を追い詰めるのか
『TAR/ター』

ベルリン・フィル初の首席女性指揮者ター。

天才にして、ストイック、傲慢、そして繊細―。芸術と狂気がせめぎ合い、怪物が生まれる。 

<STORY>
世界最高峰のオーケストラの一つであるドイツのベルリン・フィルで、女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター。彼女は天才的な能力とそれを上回る努力、類稀なるプロデュース力で、自身を輝けるブランドとして作り上げることに成功する。今や作曲家としても、圧倒的な地位を手にしたターだったが、マーラーの交響曲第5番の演奏と録⾳のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんな時に、かつてターが指導した若⼿指揮者の死から、彼女の完璧な世界が少しずつ崩れ始めるー。
公式予告動画ページより引用

今年上半期の注目作として大変話題となった『TAR/ター』。短い言葉で説明をするのが難しい作品ですが、才能あふれる芸術家の創作の苦しみに翻弄される姿を描く一方で、その地位やプレッシャーに起因すると思われる他者に対する社会的に容認されることのない厳しさ(とその告発)といったスキャンダルを描くという重厚な作りになっています。158分という大作ではありますが、2022年のヴェネツィア国際映画祭のヴォルピ杯(女性の役者が対象とされる賞)を受賞したケイト・ブランシェットの鬼気迫る演技は時間を忘れさせてくれものです。

『TAR/ター』は先日よりprime videoの会員特典としてラインナップもされ各種配信サイトでの視聴が可能となっています。この機会にぜひ体験してみてはいかがでしょうか。

なお、『TAR/ター』制作の際に参照したとされる実在の音楽家レナード・バーンスタイン(劇中の設定ではターの師)とフェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタインの物語を扱ったNETFLIX制作の映画『マエストロ:その音楽と愛と』も12/8から劇場公開、12/20からは配信がスタートします。

予告や事前情報によると『マエストロ:その音楽と愛と』はパートナーとの関係が主題となった映画のようです。『TAR/ター』が「そのような芸術家の才能や振る舞いが現代の社会でどのように受け取られるのか」という点に重きをおいていたのとは対照的であり、二作品を見比べることで感じることもありそうで、非常に楽しみです。

バンドで音楽を作り、生きていくということ
『ドキュメント サニーデイ・サービス』

1992年、曽我部恵一と田中貴らを中心に結成された“サニーデイ・サービス”。メンバーチェンジを経て1994年メジャーデビュー。翌1995年に1stアルバムにして日本語ロックの金字塔『若者たち』を発表。以降、怒涛の楽曲制作、突然の解散、ソロ活動、インディレーベルの設立、再結成。そして、メンバーとの死別、新メンバー加入など。バンドとして苦難の道を歩みながら、これまでに14枚のアルバムを発表し、今も活動を続ける彼らを、2020年春から監督カンパニー松尾のカメラが追った。

刹那を生きる、不屈のロックバンド サニーデイ・サービスの90年代から現在までを メンバー、関係者によるバンドの歴史や解説、膨大な楽曲の中から選りすぐられた初公開含む、新旧貴重なライブシーンを織り交ぜた2時間25分におよぶ壮大なドキュメントロードムービーです。
公式サイトより引用

『くるりのえいが』

2022年。伊豆にあるレコーディング・スタジオにくるりのメンバー、岸田繁、佐藤征史、そして、2002年に脱退したオリジナル・メンバーの森信行がいた。

新作のレコーディングがスタートしたばかり。この3人でレコーディングするのは久しぶりだ。バンド結成当時のことを懐かしく振り返りながらも、新作の方向性について語り合う。そして、始まったレコーディングのためのセッション。岸田が思いついたアイデアをバンドで実現していく。レコーディングが進むにつれて、3人でしかできないサウンドが少しずつ姿を現し始めた。

そんななか、京都のライヴハウス、拾得でライヴをする機会が。3人でバンドを始めた時のことを観客に語り、デビュー当時に作られた「尼崎の魚」を演奏。最後に新曲「California coconuts」を披露して、ステージでバンドの過去と未来が交差した。

伊豆に戻るとレコーディングは佳境に。メンバーはそれぞれ自分のパートを録音するが、セッションの時とは違った気迫が伝わってくる。そして、ついに完成した新曲「In Your Life」を聴くためにスタジオに集まったメンバーとスタッフ。果たして、それはバンドが求めた音なのか。スピーカーから、くるりの今を凝縮した歌が鳴り響くーー。
公式サイトより引用

サニーデイ・サービスのドキュメンタリーはコロナ禍のタイミングで行われたライブツアーの記録に加え、30年に及ぶバンドヒストリーの回顧。くるりのドキュメンタリーは今年リリースされた新作のレコーディングを取り上げたものです。

注目すべきはどちらのバンドも90年代の結成から形を変えながら、いまなお第一線で精力的に活動しており、その現在を記録しており、以前からそれぞれの活動を知っている人にとっては特別な作品になっているはずです。

それだけにとどまらず『ドキュメント サニーデイ・サービス』についてはこの四半世紀の国内の音楽文化の一端を映像資料で振り返るという意味においても貴重なものになっています。たとえば90年代後半は日本国内における音楽ソフトの売り上げが最も高まった時期でもあり、その盛り上がり/影響は当時の野心的なミュージックビデオを見ても感じることができます。

そして『くるりのえいが』は音楽が生まれる瞬間を記録するようなドキュメンタリーであり、その点では風通しの良い『ザ・ビートルズ: Get Back』を見ているような気分にもなるものでした。

12/19には劇場でのミニライブと併せて『ドキュメント サニーデイ・サービス』の上映が行われるなど、二作品ともに現在も劇場を変えつつ各地で上映が続いています。「音楽を作って生きていくこと」のあれこれを劇場に探しにいってみてはいかかがでしょうか?(了)

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