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「映像ミエカタDIY #37: 過去と出会うための映像表現(1)」【ドリームムービー通信:306号】

「映像ミエカタDIY」は当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。今回から3回に渡り、「過去と出会うための映像表現」と題して、3つの映画作品を取り上げていきます。

まず今回は昨年国内公開されたシャーロット・ウェルズ監督作品『aftersun/アフターサン』、次回(6/19更新)は今春公開されたアンドリュー・ヘイ監督作品『異人たち』 、そして3回目(8月更新予定)は現在劇場公開中のジョナサン・グレイザー監督作品『関心領域』を紹介する予定です。

いずれも大変話題になった作品ですが、「過去の出来事を現在の地点からどのように理解しようとするのか」という点について、ユニークな表現を用いて取り組んでいることからも改めて注目すべき作品です。

個人的な感覚では、この「現在の地点からどのように理解しようとするのか」という部分、つまり「過去を理解するってどういうこと?」や「過去と現在の切れ目のなさとどう向き合うか」のようなテーマについては、現代美術の領域で数多くの取り組みがありますが、映画ではそれを作品内で取り扱うのが難しいのではないかという印象がありました。

一本の映像として物語化された「ある過去の出来事」を見ることで、観客が過去(歴史)を理解する/理解し直すという構図は得意であるけれども、「過去の出来事をどのように理解するか」それ自体を一本の映画作品の中で表現するのはフォーマットの制約上難しいところがあるのではないかと考えていたからです。

しかしこの3つの作品はそれぞれ見事なまでに映画的/映像的な方法で上記のようなテーマを、家族の出来事や歴史的な出来事を取り扱った劇映画の中に落とし込んでいます。今回は、記録映像と現在からの回想を繊細に組み合わて表現することで私的な物語と向かい合う『aftersun/アフターサン』についてご紹介します。

『aftersun/アフターサン』(2022)

思春期真っただ中、11歳のソフィ(フランキー・コリオ)は、離れて暮らす若き父・カラム(ポール・メスカル)とトルコのひなびたリゾート地にやってきた。輝く太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、親密な時間をともにする。
20年後、カラムと同じ年齢になったソフィ(セリア・ロールソン・ホール)は、ローファイな映像のなかに大好きだった父の、当時は知らなかった一面を見出してゆく……。(公式Youtube予告編 キャプションより引用)

当時の映像を見ることで過去と向かい合う
この映画がユニークなのは、20年前の出来事(父とのトルコで過ごした休日)が、当時の記録映像(ミニDVテープの粗い画像)と、当時の父と同じ年齢になった現在の娘が回想するある種主観的な映像で構成されている点です。

「残された映像」といえば、以前に紹介したスピルバーグ監督作品『フェブルマンズ』では撮影されたファミリーフィルムの中に当時気が付かなかった出来事そのものを見出すというエピソードが登場しますが、『aftersun/アフターサン』では、残された記録映像は、映像に残らなかったものを回想させる呼び水といった存在として映画の冒頭で流されます。

その懐かしい旅の記憶としての記録映像が、大人になったいまだからこそ理解できる父親が抱えていた繊細さや、自身のセクシャリティへの気づきなどが描写された回想によってその前後が補われる形で物語の終盤に再度引用されたときに、この映画作品が具体的な私的なエピソードと繊細に向かい合うと同時に、映像を見ることで過去の出来事と向き合うという体験そのものを取り上げていること気づかされます。

断片的な記録と、それを手がかりとした現在の自分が思い返せること。そこには「子どもの頃は分からなかったけれど、自分自身が当時の親と近い年齢になってはじめて分かること」というような、多くの人が体験する過去の出来事との向い合い方の普遍性を見ることができるのではないでしょうか。

『aftersun/アフターサン』は現在各種配信プラットフォームで視聴可能です。思い出せなくなった過去の出来事、そしていまだから理解できる過去の出来事。誰もがそういったものを抱えながら暮らしている。『aftersun/アフターサン』を見ながら、改めてそういった当たり前だけど特別な感覚に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。(了)

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