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「映像ミエカタDIY #38: 過去と出会うための映像表現(2)」【ドリームムービー通信:307号】

「映像ミエカタDIY」は当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。前回からから3回に渡り、「過去と出会うための映像表現」と題して3つの映画作品を取り上げています。

今回はその2回目として、今春公開されたアンドリュー・ヘイ監督作品『異人たち』を取り上げながら、「過去の出来事を現在の地点からどのように理解しようとするのか」詳細は#37をご参照ください)という点について、そのユニークな表現に注目していきます。

『異人たち』 幼い頃に他界した両親との出会い
『異人たち』は『ウィークエンド』や『さざなみ』などの作品で知られているアンドリュー・ヘイ監督が、脚本家である山田太一氏の『異人たちとの夏』を原作・翻案しているということもあり、日本国内でも話題となりました。英ガーディアン紙においても2024年上半期の際立った作品として挙げられるなど、2024年を代表する作品の一つとして注目を集めています。

ロンドンのタワーマンションで暮らすアダムは、12歳の時に交通事故で両親を亡くした40代の脚本家。それ以来、孤独な人生を歩んできた彼は、在りし日の両親の思い出に基づく脚本に取り組んでいる。そして幼少期を過ごした郊外の家を訪ねると、そこには30年前に他界した父と母が当時のままの姿で住んでいた。その後、アダムは足繁く実家に通って心満たされるひとときに浸る一方、同じマンションの住人である謎めいた青年ハリーと恋に落ちていく。しかし、その夢のような愛おしい日々は永遠には続かなかった……。(公式Youtube予告編 キャプションより引用)

当時のままの両親と出会うことで過去と向かい合う
「過去の出来事を現在の地点からどのように理解しようとするのか」という点を考えたときに『異人たち』がとてもユニークなのは、現在の自分が30年前に他界した当時のままの両親と再会するということにあります。 自身のセクシャリティについて、幼い頃から抱えていた孤独について話し合うも機会なく別れてしまった両親と、その当時の両親と同じぐらいの年齢になった主人公が出会ったときに起きるのは、「もしもあの時話すことができたら…」といった「過去のやり直し」とは異なるものです。

また、「当時の親と同じぐらいの年齢になった主人公」という設定は前回紹介したシャーロット・ウェルズ監督作品『aftersun/アフターサン』と共通することで、過去へのアプローチが「過去の記録映像+回想」と「過去の人物と現在に出会い直す」では大きくことなるはずです。

『aftersun/アフターサン』では会えなくなってしまった父に対して、「子どもの頃は分からなかったけれど、自分自身が当時の親と近い年齢になってはじめて分かること」という、切実でありながらも一方通行である現在からの理解が描かれましたが、『異人たち』で描かれるのは、会えなくなってしまったはずの過去のままの両親と現在の主人公(息子)による双方向の理解です。

通常埋まることがないはずの親子の年齢差が埋められた出会い。劇映画だからこそ可能となるこの演出により、『異人たち』では他界した両親が成長した息子を前に、自分たちの未熟さを受け入れ現在の彼を理解しようとする美しい場面が描かれています。

いまの自分と同じぐらいの年齢だった両親、もしくはいまの自分と同じぐらいの年齢になった子どもと出会うことを想像する。実際に叶わないものであったとしても、現在から過去(もしくは未来)を理解しようとする時に、そのようなことが想像できるだけで、その理解の形は変わっていくのかもしれません。

『異人たち』は現在国内での劇場公開がひと段落し、6/18よりディズニーチャンネルにて配信が開始されるとのこと。 時間や生死を越えた形で解消されることのない孤独の共有を描くこと。配信にて『異人たち』の幻想的な演出をぜひ体験してみてはいかがでしょうか。(了)

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