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「映像ミエカタDIY #39: 過去と出会うための映像表現(3)」【ドリームムービー通信:314号】

「映像ミエカタDIY」は当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。前々回から3回に渡り、「過去と出会うための映像表現」と題して3つの映画作品を取り上げています。

今回は、ジョナサン・グレイザー監督作品『関心領域』を取り上げながら、「過去の出来事を現在の地点からどのように理解しようとするのか」という点について、そのユニークな表現に注目していきます。

ジョナサン・フレイザー監督作品『関心領域』

空は青く、誰もが笑顔で、子供たちの楽しげな声が聴こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から黒い煙があがっている。時は1945年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とその妻ヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)ら家族は、収容所の隣で幸せに暮らしていた。スクリーンに映し出されるのは、どこにでもある穏やかな日常。しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、建物からあがる煙、家族の交わす何気ない会話や視線、そして気配から着実に伝わってくる。壁を隔てたふたつの世界にどんな違いがあるのか?平和に暮らす家族と彼らにはどんな違いがあるのか?そして、あなたと彼らとの違いは?(公式予告編キャプションより引用)

前回までに紹介した『aftersun/アフターサン』と『異人たち』は、劇中の現在を生きる登場人物がどのように過去の出来事と向き合っていくのかを特徴的な演出で表現していましたが、それとは対照的に『関心領域』はより映像的な表現によって過去の出来事と現在の地点をつなぎ、登場人物ではなく観客それぞれが現在から切れ目なくつながる過去と向き合うような仕掛けを設けています。

 

映像作家としてのジョナサン・グレイザー

監督を務めたジョナサン・グレイザーは映画作品としては『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2014年)で一躍注目を浴びましたが、個人的には印象的なミュージック・ビデオを制作してきた映像作家という印象が強くあります。

代表作としてはなんといってもジャミロクワイの「ヴァーチャル・インサニティ」が挙げられるのではないでしょうか。

なめらかに動く床の上をジェイ・ケイがすべるように踊る映像が、実はカメラが固定された箱庭自体が動いているという仕掛けで成立しているという映像的な工夫はいま見ても十分に快楽的です。

レディオヘッドの代表的な一曲である「カーマ・ポリス」のミュージック・ビデオも同様の仕掛けを用いた素晴らしい作品です。いずれの作品もカメラ自体は監視カメラのような静的な状態を保ちつつ、映像上ではユニークな出来事や動きが生じます。このような映像的な仕掛けが作品を成立させるための大きな柱となっているのは、劇映画である『関心領域』においても同様です。

 

『関心領域』における箱庭と現在をつなげる表現

 

こちらのメイキングを見ると、映像的な仕掛けがこの映画においても重要な位置を占めているのがよくわかります。歴史的な資料をもと再現されたアウシュビッツ収容所と壁一枚隔てた場所にある家と庭に無数のカメラを配置し、その中で演技をする俳優を記録するという方法は、監視カメラで箱庭の中を観察しているようでもあり、直接的に「ヴァーチャル・インサニティ」を彷彿とさせます。

部屋から部屋へと移動する登場人物をカメラが追いかけて動くことはないけれど、被写体をまちぶせているかのように廊下、階段、部屋とカメラが切り替わっていく。このなめらかさの生み出す不気味な印象は、家や庭のシンプルなデザインと、明暗のコントラストが抑えられ、淡い色調で統一されたカラーマネジメントと合わさることでより強調されたものになります。

私自身は劇場で映画を見ながら、このような強調された映像的な効果が、特定の歴史、コスチュームプレイの世界観を作り出すための美的な選択、スタイルとして存在しているのかと飲み込んでいました。つまり、収容所の隣にある暮らしがある種の「関心の領域」によって完結した日常となっていることについての表現だと思っていたのです。

しかし、映画が終盤に差し掛かるタイミングでそれが寸足らずの了解であったことを知ることになります。歴史劇を映し続けてきた画面が、特徴的な音響ともに不意に現在のホロコースト関連の展示施設に切り替わるのです。展示施設の開館前の掃除が特徴的な映像的な効果を引き継ぐ形で映し出された時の、歴史劇と現在の境目のなさは大きな衝撃を受けるものでした。

映像的な特徴によって、観客は『関心領域』を自身とは距離のある「歴史劇」として見つめることになるのですが、同じ特徴により最終的に観客は歴史と現在のつながりを目の当たりにすることになる。物語ではなく映像の効果によって観客を揺らす、そこにはジョナサン・フレイザーの映像作家としての矜恃を感じることができるのではないでしょうか。(了)

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