「映像のミエカタDIY」は、当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、DIY(Do it yourself→自分でやってみよう!)を合言葉に、リモートワークの環境下で身近なものを素材として取り上げながら、改めてその面白さを確認していくコンテンツです。
第3回の今回は『間を省くと伝わること』と題して、身近なテレビ番組を紹介しながら、映像における「時間の省略」についてお話を致します。
「省略」と言うと、一般には YouTube 動画に見られるように無駄を省いて短い時間に内容を凝縮するような映像を連想するかもしれませんが、同じ方法でまた別種の効果を生み出し豊かな映像コンテンツに仕立て上げることに成功している映像も数多く存在しています。
今回は「ジャンプカット」という編集方法と、それを効果的に用いたTV番組『水曜どうでしょう』に触れながら「時間の省略」について考えてみようと思います。
ジャンプカットについて
YouTubeを閲覧していると、特に日本語圏の映像に顕著ですが、センテンス間を極限まで詰められた出演者のモノローグ(ひとり語り)がぎっしり詰まった短い動画に沢山出会います。その多くは同一の撮影素材の不要部分をカットして、より多くの情報をより短い時間の中でテンポ良く伝えるように試みられています。
このような編集方法は「ジャンプカット」という名前で知られているものです。同一の撮影素材を切り刻んで繋ぐことにより、繋ぎの前後に違和感が出ますが、それを繰り返すことにより映像のテンポを上げる効果を認めることが出来ます。
ジャンプカットの端緒を巡っては諸説ありますが、その一つにはヌーヴェルヴァーグ期のフランス映画、例えばゴダール監督作品の『勝手にしやがれ』が挙げられています。
しかし、昨今のYouTube動画を含む日本語圏の映像作品とジャンプカットの関係について考える場合、北海道のテレビ局であるHTB制作による『水曜どうでしょう』の影響を見逃すことは出来ません。
ローカル番組でありながら、いまなお毎日のように日本各地のTV局で過去作品が放送されているこの人気番組では、少ないカメラ台数による撮影とジャンプカットを多用した編集が用いられています。
その特徴的な番組のスタイルや編集方法はYouTube動画に限らず各局制作のテレビ番組にも多くの影響を与えていますが、それらと比較対照をすることにより『水曜どうでしょう』のジャンプカットが、番組を特徴付けるためにとても重要な要素であることを改めて伺い知ることが出来ます。
『水曜どうでしょう』とは
『水曜どうでしょう』は1996年〜2002年にHTBで制作・放送され、現在も不定期で新作を発表し続けているバラエティ番組です。基本的には2人の出演者、ご存知大泉洋さん、鈴木貴之さんと2人のディレクター陣(藤村忠寿さん、嬉野雅道さん)の計4人を主要メンバーとして、荒々しいお題目のクリアの為にメンバーが移動を繰り返す最中での4人の遣り取りを中心とした出来事が取り上げられています。
その多くのコンテンツは4人のみで行う長時間のロケ撮影で構成されており、出演者の2人と企画者である藤村ディレクターとの遣り取りを、撮影担当の嬉野ディレクターがビデオカメラ1台で記録するスタイルが取られています。
『水曜どうでしょう』のジャンプカット
例えば『サイコロの旅』という代表的な企画は、サイコロを振り、出た目の数により指定された移動方法と行き先を経由しながら札幌へ戻ろうとするコンテンツです。その過酷な長距離移動 (主に深夜バス)を繰り返す度にゴールである札幌から離れていく4人の数日に渡る珍道中が描かれています。
サイコロを振る→移動手段と行き先の決定→長距離移動→指定された行き先に到着→サイコロを振る→移動手段と行き先の決定→長距離移動→指定された行き先に到着→サイコロを振る…
その繰り返しである番組構成の中で、おそらく撮影時間の多くを占めているのが「長距離移動」です。長距離バスの場合は移動時間が10時間ぐらいあるので、1台のカメラによる撮影素材も大変な量になると思われます。
実際の番組の中でも移動の最中に起きる4人の絶妙な遣り取りに多くの時間が割かれていますが、20分程の番組の中では使える時間は自ずと限られてきます。そこでジャンプカットという編集方法が特徴的に用いられることになります。
先に掲載したFig.1と比較すると大きな違いがあることに気が付きます。Fig.1では不採用箇所の時間の方が短くなるのに対して、『水曜どうでしょう』の場合(Fig.2)は不採用箇所の時間が採用された箇所の時間に対して圧倒的に長くなります。
このような特徴が現れている『水曜どうでしょう』のジャンプカットは、映像表現においてどのような効果を与えているのでしょうか?
間を省くことで伝わる「時間の経過」
番組ディレクターの藤村さんは、とある鼎談の中で『水曜どうでしょう』におけるジャンプカット編集について問われた際に、長距離移動があったことを示すには「乗車時の出演者の顔」と「降車時の顔」を続けて流す方が伝わり易い、との旨を簡潔に回答されていました。
つまり、長距離の移動というオンタイムで表現することが出来ない「時間の経過」を効果的に表現するために、移動のシーンの大方を省き「乗車時の元気な表情」と「降車時の疲れ切った表情」のみを残したわけです。
使用カメラの台数が少ないこと、出演者たちのコミュニケーション(主にお喋り)がコンテンツの中心にあることで、必然的にジャンプカットを多用する必要がある一方で、その方法だからこそ可能となる映像表現を意識的に選択していることは注目すべきことだと思います。
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いかかがでしたでしょうか?
ゴールデンタイムのバラエティ番組で主演映画の宣伝をする現在の大泉さんと、25年前の深夜バスに乗り込む大泉さんの姿。
平日の夜にテレビのチャンネルをパラパラと変えていると、その大泉さんの2つの姿を続け様に見ることが出来きますが、それ自体が壮大なジャンプカットのようにも見えてきます。
いまや国内を代表する役者として活躍されている大泉洋さんの出発点でもある『水曜どうでしょう』。現在は各地TV局での再放送の他にも、HTBのオンデマンド配信やNETFLIXでも視聴が可能です。
その編集方法に注目しながら視聴すると、映像表現の新たな発見があるかもしれません。
この機会にぜひ一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。
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「映像のミエカタDIY」では今後も日常的なモチーフから映像の効果、そして映像表現と方法の組み合わせについても考えていきたいと思っています。お読みいただく皆さまの映像の取り組みの参考になりますと幸いです。