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「映像のミエカタDIY #04:12年分の「時間」と「瞬間」のつなぎかた」:ドリームムービー通信170号

「映像のミエカタDIY」は、当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、DIY(Do it yourself→自分でやってみよう!)を合言葉に、リモートワークの環境下で身近なものを素材として取り上げながら、改めてその面白さを確認していくコンテンツです。

これまでの#01-#03では時間についての映像の効果について触れてきました。時間を表現するために、映像を早回しする(#01)。肉眼では認識することが難しい一瞬の出来事を、ハイスピード撮影から作成したスローモーション映像で表現すること(#02)。先週の#03では時間を省略することについて、TV番組『水曜どうでしょう』とジャンプカットの関係についてご紹介致しました。

この#04では「12年分の『時間』と『瞬間』のつなぎかた」と題して、時間についての実直な取り組みが話題になった映画『6才のボクが、大人になるまで。』を紹介しながら、映像表現と「時間のつなぎかた」についてお話を致します。

『6才のボクが、大人になるまで。』について

『6才のボクが、大人になるまで。(原題:Boyhood)』は、『ビフォア・サンセット』『スクール・オブ・ロック』でも知られる映画監督リチャード・リンクレイターによる2014年公開の映画作品です。小学生のメイソンが大学生になるまでの12年間、6歳から18歳の姿を、彼を取り巻く家族の姿も含めて描いたこの映画の特筆すべきことの1つは、実際に12年の歳月をかけて撮影が行われ、主要キャストは12年間同じ役柄を演じ続けたことにあります。

リンクレイター監督の発言*1.からも、同一の主人公を同一の役者が演じ、その成長を長い時間の経過の中で見せるというアイデア自体は、フランソワ・トリュフォー監督の『アントワーヌの冒険』と呼ばれる、ジャン=ピエール・レオ演じるアントワーヌ・ドワネルを主人公とする『大人はわかってくれない』(1959年)から『逃げ去る恋』(1978年)までの連作の影響下にあるものと考えることが出来るかもしれません。

しかし、12年という長い時間の中の成長を1本の映画として見せるというアイデアは、これまでの作品でも時間について意識的なアプローチを見せてきたリンクレイター監督の特徴がよく出たものと言えるはずです。

時間のつなぎ目を見せないこと
少年の12年間の成長を165分の長さで表現したこの映画には、時間を表現するための大袈裟な発明のようなものは存在していません。そこには年齢を示すようなテロップさえもなく、毎夏の数週間で撮影された、1日(長くても2日程度)の出来事が時系列に沿って淡々と並べられています。

夜の場面で閉じる「ある年の出来事」と、つなぎ目なく「翌年の出来事」の朝の場面が続いていく。そのようなことが劇中では連続して起こります。そのつなぎ目のなさと、主人公の身体的な成長速度の濃淡が合わさることにより、時間の経過に気づかないことや、急激な変化に驚いたりしながら視聴者は映画の中の12年間を体験することになります。

あらゆる瞬間を現在として感じること
それではこの時間的なつなぎ目を殊更に表現せずに、出来事を重ねていくことにより、一体どのような表現と効果が可能になるのでしょうか?それを指し示すものとして、示唆に富んだ映画終盤での劇中の台詞を引用します。


一見すると意味深長な台詞ですが、実際にこの映画を見続けた人々にとっては、自分の受けた感覚を端的に説明するものと受け止められる言葉です。

その感覚というのは、12年間の1つ1つの出来事をそれぞれ今の出来事として受け止めて、映画を見続けていたというものです。

もし劇中に「6才」、「12才」といった区切りが何らかの方法で明確に存在していれば、「18才」を現在と措定し、それまでの一連を「過去の出来事」として受け止めるための時間の構図が生まれ、映画全体が「18才のボク」に集約されていくことになっていたかもしれません。

一方で、時代の移り変わり自体は毎年の撮影で登場する小道具(登場する子供部屋のゲーム機器や携帯電話やApple社製のプロダクトの変遷)によって記録されていることも注目すべきことでしょう。この控えめな演出は、時代の区切りとして作用するのではなく、その時々を今の出来事として受け止める要素として機能していると考えられるものです。

シンプルなアイデアを用いることにより、「過去の出来事」の積み重ねではなく、「今の出来事の積み重ね」として長い年月を見届けることが可能になる。引用した台詞からも見て取れるように、リンクレイター監督がそうした「一瞬/出来事の現在性」について意識的に取り組んでいることは明らかなことのように思えます。

時間についての映画
リンクレイター監督のこれまでの作品、とりわけ9年間隔で発表された3部作『ビフォア・サンライズ』『ビフォア・サンセット』そして『ビフォア・ミッドナイト』(これらも主要な配役を同じ役者が演じ続けている)と本作を並べ見ると、その取り組みは一層際立ったものとなります。

本作はひとりの少年の12年間の成長が取り上げられていますが、『ビフォア3部作』は旅行中に出会った男女の「出会い」と「再会」そして「その後」が取り上げられています。

それらを成長譚やロマンスとして考えることは可能ですが、劇中の人物たちが生きる過去の出来事から現在へと切れ目のない人生を目の当たりにした時に残る実感は、先ほど引用した劇中の台詞と寸分変わらぬものとなります。

劇中の登場人物と視聴者が「時間の受容」について、同じ実感へと辿りついてく。リンクレイター監督が自身の時間に対する人文学的な興味と、SFの文法や時間についての映像の技法を用いるのではなく、実直に時間を積み重ねていくことで向かい合ったことが、このような稀有な現象を可能としたのかもしれません。

『映画『6才のボクが、大人になるまで。』はプライムビデオをはじめ各種配信プラットフォームから視聴可能です。皆さまも夏休みの機会に、リンクレイター監督独特の時間の流れを体験してみてはいかがでしょうか?

「映像のミエカタDIY」では今後も日常的なモチーフから映像の効果、そして映像表現と方法の組み合わせについても考えていきたいと思っています。お読みいただく皆さまの映像の取り組みの参考になりますと幸いです。

 

*1. Stone, R. 2013.  “American Art House” In the cinema of RICHARD LINKLATER : walk, don’t run,  p.136. New York : Wallflower Press.

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