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「映像のミエカタDIY #10:映画『ザ・ビートルズ:Get Back』に見るアーカイブと再編集」【ドリームムービー通信:195号】

「映像のミエカタDIY」は、当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近なものを素材として取り上げながら、改めてその面白さを確認していくコンテンツです。前回に引き続き、今回も映像で表現された音楽についてご紹介していきます。

今回は2021年に配信にて公開されたドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ:Get Back』(https://disneyplus.disney.co.jp/program/thebeatles.htm)に触れながら、記録映像やドキュメンタリー映画について改めて考えてみようと思います。

映画『ザ・ビートルズ:Get Back』について

映画『ザ・ビートルズ:Get Back』は、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの監督として知られるピーター・ジャクソンにより、ビートルズの1969年1月に行われたセッション(ゲット・バック・セッション)と彼らの最後のライブパフォーマンス「ルーフトップ・コンサート」を記録した映像と音声で構成されたドキュメンタリー作品です。

当時の記録は、ビートルズのリハーサルとライブ演奏を映像コンテンツにするためにマイケル・リンゼイ=ホッグにより取り組まれ、映画『レット・イット・ビー』として1970年に公開されていますが、今回膨大な未公開フィルムと未公開音源と合わせてピーター・ジャクソンによって時系列に並べられ、新たに3時間x3本の長編ドキュメンタリー映画として日の目を見ることになりました。

長い時間が経過したアーカイブを現代の技術で修復、洗練化

今回のピーター・ジャクソンの取り組みで、注目を浴びたのはアナログで記録、保存されたアーカイブに対する最新の修復技術です。

映像については、退色されたフィルムの修復と質の高いスキャニングにより、16mmフィルムから35mmへと引き延ばして現像された当時の状況ではアウトプット出来なかった撮影時のフィルムのポテンシャルを引き出すことに成功しています。

音声においては、フィルムやテープの中で一緒くたに記録されている各人の声や楽器の音を、機械学習で各パートに分離させることが可能になりました。劇中に見られる音声記録と、映像に含まれる音声記録を合せた繊細かつ大胆なモンタージュも、この技術があってこその表現のように思えます。

再編集:新たにやり直すということ
今回の映画『ザ・ビートルズ:Get Back』において個人的に最も興味深かったのは、一度映画作品として完成した記録映像がアウトテイクとともに再考され、新たなドキュメンタリー映画として作り直されたということです。

1970年の映画『レット・イット・ビー』により、ビートルズのバンド史の中で定説となっていたものが今回の映画公開によって覆されるなど、この映画により様々な驚きがありました。それはビートルズについての再考にとどまらず、映像の特性について改めて考える機会にもなりました。

たとえドキュメンタリーと呼ばれるものであっても、それは「記録映像=客観的」ではなく、そこには常に撮影者や編集者、そして監督の「選択」が存在しているということ。私たちが目にしている映像は「事実」そのものではなく「積み重ねられた選択とその結果」であるという、映像のリテラシーを改めて意識させる出来事でした。

ピーター・ジャクソン監督曰く「出来るだけ客観的であるように」制作された『ザ・ビートルズ:Get Back』。そこには、かつての映画『レット・イット・ビー』で強調されていた軋轢やその原因とされていたものの存在よりも、鮮やかに映し出されたものがありました。

それぞれのクリエティヴィティにおけるステージの違いが生み出したすれ違いや、信頼を寄せるマネージャーを失い、メンバー以外の様々な人間が関わり混沌とした事業へと膨らんでしまったバンドの状況、そして楽曲をセッションで制作する上での悪戦苦闘。そんな中にも音楽を通して時折訪れる喜びの瞬間や互いへの信頼のようなものをキャプチャすることに重きが置かれているようでした。

「撮影された映像はその時々で見え方が変わる」
50年前の出来事を「最新の修復技術」と「いまの視点」で見直してみる。当時の映画『レット・イット・ビー』への歴史的な評価は思わしいものではありませんが、その制作のために多くのカメラでフィルムが回されたことが今回の作品を可能にしていることは言うまでもありません。

それぞれの監督が重きを置いたものが、実際の出来事の中でどのような「確からしさ」として存在していたのか。もちろんそれを測ることは出来ませんが、少なくとも膨大なアーカイブからピーター・ジャクソンがいま見るべきと提示したものに、当時の監督マイケル・リンゼイ=ホッグを含む撮影クルーの現場での姿までもが含まれているという事実には、推し量るべきものがあるのではないでしょうか。

かつて芸術作品として制作された写真が時を経て、貴重な時代の記録として再評価される。そのような例は多くありますが、今回の映画『ザ・ビートルズ:Get Back』にもそのような資料としての映像や、アーカイブについて考える上での素晴らしいきっかけがあるように思いました。ご覧の際にはビートルズの貴重な姿や演奏の記録と併せて、同じ映像が長い年月の中で違う意味が見出されていくこと自体にも思いを馳せてみてはいかかがでしょうか?

「映像のミエカタDIY」では今後も日常的なモチーフから映像の効果、そして映像表現と方法の組み合わせについても考えていきたいと思っています。お読みいただく皆さまの映像の取り組みの参考になりますと幸いです。

 

来週23日は休日の為メルマガお休みです。

次回配信は3月2日になります。お楽しみに。

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