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「映像のミエカタDIY #11:『マッカートニー 3, 2, 1』に見る、インタビューが映像を必要とする理由(1)」【ドリームムービー通信:202号】

「映像のミエカタDIY」は、当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。
今回から2回に渡り「『マッカートニー 3, 2, 1』に見る、インタビューが映像を必要とする理由」と題して、インタビューの映像表現について、ポール・マッカートニーが自身の音楽キャリアを振り返るインタビュー映像で構成された非常に優れたドキュメンタリー・シリーズに触れながら考えていきます。


『マッカートニー 3, 2, 1』について
ポール・マッカートニーがザ・ビートルズでの活動やその後のソロ活動も含めてキャリアを振り返る6つのエピソードで構成されたドキュメンタリー・シリーズ。2021年7月に米Huluで配信にて公開、日本国内では2021年12月にディズニープラスによる独占配信開始)。聞き手に伝説的な音楽プロデューサー、リック・ルービンを迎え、全編で一対一のインタビューの形式が用いられています。

Q.1 インタビューは映像表現を最終的なアウトプットにする必要があるのか?
インタビュー動画については、テレビのニュース映像からYouTubeのコンテンツまで幅広く用いられていますが、「インタビューはとりあえず動画で」という認識については少し冷静に考えていく必要があるのかもしれません。

インタビューにおいて伝えるべき情報が、インタビュアー(聞き手)とインタビュイー(話し手)による言語的な遣り取りを主としている場合は、実はそこに映像表現の優位性というのはあまり存在していないのかもしれません。

なぜなら映像は時間の進行と、それについての受け手の甘受を前提とするメディウム(媒体)であるからです。

言語的な遣り取りを「より深く理解する」という意味では、時間的な制約がなく己の視線次第で自由に前後を行き来する(読み直し、読み飛ばしといったリテラシー)ことが可能なテキストベースのメディウムが、それにより適していると考えることができます。

例えば、特定のセンテンスを繰り返し読み、思いを巡らせる。活字からのインプットにおいては、このようなことを自然に行っているはずです。しかし、同様のことを映像に対して行う場合には、まず再生環境に対する働きかけから始めることになります。そこに活字を読むような自由がないことは想像に難くありません。

このように、視覚をベースとした「読む」という行為から生まれる経験の豊かさとの比較では、映像には分が悪いところがあります。ですから、映像によるインタビューを考える際には、テキストベースでは得られない経験を作り出すことを意識する必要があるはずです。

Q.2 映像表現を必要とするインタビューとは?
もし伝えるべき情報が言語的な遣り取りと同じぐらいに、視覚・聴覚情報といった非言語的な情報を多分に含む場合は、インタビューを映像として表現する必要があると考えられます。

たとえば、どのようにしてその言葉が語られることになったのか。つまり、インタビュー当事者の関わりから「語りが生まれる瞬間」を記録することが、そこで生じた言語の遣り取りと同じぐらいに重要だと考えた時に、映像表現はそれを表現する手段として優れた効果を発揮することができます。そういった記録性において映像表現と比肩し得る表現は見当たりません。

Q.3長時間のインタビューから構成された『マッカートニー 3, 2, 1』がドキュメンタリーとされる理由は?
『マッカートニー 3, 2, 1』ではポール・マッカートニーが、自身の音楽キャリアや具体的な楽曲の制作過程について、初めて明らかになるようなエピソードを含む形で語っています。その点についてはインタビューの「成果」と呼ばれるべきもので、ポールやザ・ビートルズの長年のファンにとってはとても大切な情報になるはずです。

しかし、その長時間のインタビューを作品として実際に視聴すると、作品が中心に捉えているものは「ポールの語りの内容」そのものというよりも、その「生き生きとした語りがどのように生じたのか」という点にあるのではないか、そんな印象が強く残ります。

「その演出方法でなければその語りは生まれなかった」とも言えるような、聞き手であるリック・ルービンの優れたパフォーマンスや、インタビューと撮影の細かいコンセプト。それらが過去を振り返るきっかけを作り出し、それに応える形でポールが生き生きと語り出すという、その美しい一連の流れがこの作品には記録されています。

それは、まさにQ.2で触れた「語りが生まれる瞬間」を記録するということに重なってくるものです。その記録性を作品の中心に据えたという点で、『マッカトニー 3, 2, 1』におけるインタビュー映像がドキュメンタリーと称されていることはとてもリーズナブルなことだと思えます。優れたインタビュー映像はドキュメンタリー性を伴う、もしかしたらそんな言い方も出来るのかもしれません。

来週の「映像のミエカタDIY」では、引き続き『マッカートニー 3, 2, 1』に触れながら、「語りが生まれる瞬間」を記録するインタビューの映像表現における具体的な要素について考えていく予定です。お読みいただく皆さまの映像の取り組みの参考になりますと幸いです。(了)

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