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「映像のミエカタDIY #14:ヌーヴェル・ヴァーグを劇場で(2)」【ドリームムービー通信:211号】


「映像のミエカタDIY」は、当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。

先週から2週に渡り、1950年代末に起きたフランス映画のムーブメント「ヌーヴェル・ヴァーグ」の映画作家を紹介しています。今週はエリック・ロメールとジャック・リヴェットを取り上げます。

エリック・ロメールは80年代の作品を中心に大手配信プラットフォームでの公開によりアクセスが容易となり、ジャック・リヴェットについてもDVD等の販売ソフトが長らく絶版の状態でしたが、今春から特集上映「ジャック・リヴェット映画祭」が国内で実施されており、現在も各地の劇場で鑑賞が可能です。

この2人の作品の現代の映画や芸術への影響の大きさは、先週紹介したトリュフォー作品のそれをも上回るものがあるかもしれません。とりわけロメール作品の現代映画への影響は注目すべきものがあります。

昨年末に劇場公開された濱口竜介監督の『偶然と想像』(2021年)には、ロメール作品『パリのランデヴー』(1995年)からの直接的な参照があります。

今春国内公開されたジャック・オディアール監督、セリーヌ・シアマ脚本『パリ13区』(2021年)は、「もしロメールがいまを生きるパリの若者たちを、現代的な協働のもとで描いたら…」思わずそんなことを想像してしまうような映画作品です。

そして、この6月下旬からは「韓国のエリック・ロメール」と形容されることもある韓国出身のホン・サンス監督による『イントロダクション』(2020年)と『あなたの顔の前に』(2021年)が日本にて公開されます。

このような現代の優れた映画作品と向き合うアプローチの1つとしても、当時の素晴らしい作品を劇場や配信で味わってもらえれば嬉しい限りです。

エリック・ロメールについて
エリック・ロメール(1920年-2010年)は、トリュフォーと同様にカイエ・デュ・シネマ誌で批評家として活動、後に編集長も務めました(1957年-1963年)。1950年代前半から短編映画を制作していましたが、(現存する)長編第一作『獅子座』が1959年に制作されてから1962年まで一般公開がされなかったなどの不遇もあり、他のヌーヴェル・ヴァーグの作家と比較すると評価の確立まで時間を要することになりました。しかしその後は、1967年に『コレクションする女』がヒットするとともにベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞し、一気に注目が集まりました。

80年代に制作された、女性を主人公として自然光でのロケ撮影や芝居的なストーリーでいわゆる「恋愛模様」を描いた「喜劇と格言劇」シリーズは、『海辺のポーリーヌ』(1983年)がベルリン国際映画祭監督賞、『緑の光線』(1986年)がヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞するなど、ロメールの代表作(シリーズ)となりました。

ジャック・リヴェットについて
ジャック・リヴェット(1928年-2016年)は1950年代にはカイエ・デュ・シネマ誌の論客として活動し、他のメンバーよりも早くに映画制作を始めます。1958年にはトリュフォー『大人はわかってくれない』(1959年)を先行する形で長編映画『パリはわれらのもの』(1961年)に着手するものの、資金難により制作が難航するなど、ロメールと同様に作家としての評価がヌーエヴェル・ヴァーグの盛り上がりと一致しないところがありました。

しかし、その後1960年代後半から1970年代にかけて、ヌーヴェル・ヴァーグの作家たちの中でも極めて先進的な作品を制作し、1974年に公開された『セリーヌとジュリーは舟でゆく』はロカルノ国際映画祭での受賞等、大きな評価を得ました。

この作品にはリヴェットのほぼ全ての作品に共通する「演劇」や「劇中劇」そして、「反復」と謎めいた「省略」といった要素が非常にポップな形で落とし込まれており、さらには現代におけるゲームに見られるような「物語への参加行為」を劇中で取り上げるなど、公開から50年近く経ったいまでも衰えることのない評価と「カルト的な人気」を得ることになりました。

その後も、1990年代には『美しき諍い女』(1991年)がカンヌ国際映画祭グランプリを獲得するなど、批評的にも興行的にも成功した作品を継続的に発表しました。

『偶然と想像』とロメール、リヴェット、そして「演劇」
冒頭にて濱口竜介監督作品『偶然と想像』のロメールの『パリのランデヴー』への参照について少し触れました。それについては監督本人もインタビューで言及していますが、基本的な構造や「偶然」をロメール作品から受け継ぎながらも、『偶然と想像』がロメール作品と一線を画するところに辿り着いているのはとても大変興味深いところです。

また、リヴェット作品からの影響については言及されてはいませんが、濱口監督のいくつかの作品や、制作過程において取り組まれている「ワークショップ」や「演劇」、そして「劇中劇」といった要素が『偶然と想像』ではとても自然な遊戯のような形で劇中に現れているところに、リヴェット作品『セリーヌとジュリーは舟でゆく』との共通点を見ることができるのではないでしょうか。

過去の映画作品がリストアされ、劇場や配信プラットフォームで容易にアクセスできるようになってきました。それによって現代の映画の楽しみ方の種類が増えるようにも思えます。たとえば『パリ13区』や『偶然と想像』とロメール映画を並べれば、その共通点とともに違いについても気付くことができます。今の時代の映画表現が何に重きを置き、取り組まれているのか。そのようなことを考えるきっかけとしても、皆さまもぜひこの機会にヌーヴェル・ヴァーグの映画作品をご覧になってはいかがでしょうか。(了)

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