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「映像のミエカタDIY #15:『ストレンジャー・シングス』と時代のリバイバル」【ドリームムービー通信:218号】


「映像のミエカタDIY」は、当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。今回は、Netflix制作・配信のドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』を取り上げ、カルチャーや表現における時代のリバイバルについて考えます。

2010年代のポップカルチャーに起こった世界的な80年代リヴァイヴァルの決定版と称された『ストレンジャー・シングス 未知の世界』。この作品で表現された1980年代の世界感において「描かれたもの」、そして「描かれなかったもの」に注目することは、ポップカルチャーを中心に延々と繰り返される時代のリヴァイヴァルとの付き合い方、とりわけ自分の過ごした時代と影響を受けた文化を、これからの時代にどのように活かすことができるのかを考えるためのちょっとしたヒントになるのかもしれません。

『ストレンジャー・シングス 未知の世界』について

『ストレンジャー・シングス 未知の世界』はNetflixが制作、双子の兄弟であるマット・ダファーとロス・ダファー(Matt and Ross Duffer, 1984年2月15日- )が制作総指揮を務め、2016年7月にシリーズが初配信されました。最新シリーズであるシーズン4が本年5月と7月に公開され、いまなお注目の作品です。

『ストレンジャー・シングス 未知の世界』が直接的に参照する80年代カルチャー
1980年代アメリカインディアナ州の架空の田舎町を舞台、超自然現象の解明のために奮闘するこどもたちの活躍と成長を中心に描いた物語は、直接的には80年代に製作されたこどもを主人公とするスティーブン・スピルバーグ監督/製作として関わった諸映画作品や、スティーブン・キングの文学作品、そして『エルム街の悪夢』といったホラー映画シリーズを参照していると考えられています。

細かい(マニアックな)80年代文化の参照や再現が作品ファンの間では話題になっていますが、こどもたちが自転車で駆け回るシーンのように、一目で視聴者に対して作品世界を理解可能なものとする『E.T』や『グーニーズ』といった世界中で親しまれる映画作品からの参照を、パロディではなく新たに広く共有されうる物語の構築のために用いていることは大変興味深いところです。

選ばれた80年代と選ばれなかった80年代
80年代文化の参照については映像作品だけではなく、当時のポップミュージックについても興味深い使われ方がされています。

シーズン3では映画『ネバーエンディング・ストーリー』(1984年)の主題歌が取り上げられ、

シーズン4ではケイト・ブッシュの「Running Up That Hill」(1985年)やメタリカ「Master Of Puppets」(1986年)が物語のとても重要な役割を担っています。「Running Up That Hill」については、発表当時は全米チャート30位だったものが、『ストレンジャー・シングス4』の公開時にはストリーミングチャートで全米チャートの最上位近くまで急上昇したことで大変ニュースにもなりました。

その一方で当時誰もが「その年の1曲」として思い浮かべるような曲が劇中で使われないことや、シーズン1の時代設定である1982年にアメリカの田舎町でアクセスすることが可能であったのか疑問符がつくような音楽(ザ・スミスやザ・クラッシュ)を主人公たちの大切なものとして、物語をドライブさせるための役割を担わせている点も興味深いところです。

このような「取捨選択」や「付け足し」は、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』が表現するものが、いわゆる1980年代アメリカの文化を忠実に再現することよりも、当時実際にはスポットライトのあたることのなかったナード・カルチャー(オタク文化)とその周辺にいる人々の物語であることに重きを置いていると考えれば納得できるものです。

現代の倫理との照らし合わせ方
かつての時代を描く際には、平等性をめぐる現代的な感覚をどのように作品に落とし込むのか、そのようなことが現代のコンテンツには広く求められています。その視点から『ストレンジャー・シングス 未知の世界』を眺めてみると、キャスティングには明らかな現代的な平等性に対する配慮がされる一方で、物語の設定としてとりわけシーズン4では当時のスクールカーストや映画『キャリー』を想起させるような苛烈な描写があります。これは前述したナード・カルチャーに関係する人々を主人公として描くためにも、目を背けるべきではない乗り越えるべき80年代の影としてあえて「残された」ものとして考えることが出来るはずです。

その時代のためのリバイバル
再現ではなく、現代の感性や倫理を以てアップデートすること。それは何も『ストレンジャー・シングス 未知の世界』に特別見られることではありません。例えば服飾におけるリバイバルで80年代にアプローチをする場合は、単純に古着屋で80年代の衣服を手に入れて当時のようにそのまま身に付けることと、2010年代からの80年代解釈でアレンジを加える、もしくは新たに制作された衣服を選ぶことでは、視覚的に似て非なるものがあるはずです。世界中で親しまれているデニムパンツでさえ、同じ型番であっても時代によってそのシルエットは調整され続けています。

その時代の何を選び取り、何を変えて、いまの時代の向き合うのか。多感な時期を過ごした時代が個人に与える影響はとても大きいものです。80年代に10代の年月を過ごされた方が、80年代の世界感を現代のコンテンツとして絶妙にチューニングされた『ストレンジャー・シングス 未知の世界』を見て、どのように感じるのか。もしかすると自身の経験をこれからの時代に向けて調整するきっかけにもなるのかもしれません。個人的にはその点について、とても興味深く、羨ましくも思うところがあります。

SFやホラーの要素を多分に含むドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』。残暑厳しい夏の夜の過ごし方としても、ぜひご覧になってはいかがでしょうか。(了)

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