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「映像のミエカタDIY #21:こちらを指すことのない言葉(会話劇を見る)」【ドリームムービー通信:243号】


「映像のミエカタDIY」は、当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。今回は「こちらを指すことのない言葉(会話劇を見る)」と題して会話劇の映画について、日本でもこの2月に公開が始まったばかりの映画作品『対峙』に触れながらご紹介します。

映像の中の「言葉」と「矢印」
テレビのニュース番組やバラエティ番組、そしてYouTubeやSNS上の動画で見られる会話や発せられる言葉の多くが直接的にも間接的にも視聴者に向けられた言葉(視聴者に伝えたい言葉)です。そういったコンテンツの視聴者は、そもそも自分に必要な情報を求めて映像を見ていることから、映像内の言葉⇄視聴者という直接的な矢印の向きは情報の教授(もしくは享受)を考えると、非常に効率的なものであると言えます。

私も英語の発音などの情報を得るためにYouTubeのコンテンツをよく視聴していますが、YouTuberがまさに私に話しかけてくれるような状況で必要な情報にアクセス出来ることに、まさに「話が早い」というような利便性を身に染みて感じるところがあります。

会話劇の「言葉」と「矢印」
上記の例とは対照的に、会話劇の形式を用いた映画は言葉の矢印が作品の鑑賞者の方に向くことなく、常に登場人物の間に⇄として位置しています。もっともこれについては劇映画の多くに当てはまる特徴であり、登場人物が突然カメラ目線で視聴者に向けて語りかけるようなメタ構造が存在しない限り、矢印は登場人物の間に位置し続けます。

しかし、会話劇に特徴的であるのは、登場人物間の言葉の遣り取りが物語を進める唯一の要素であることです。今回紹介する映画『対峙』のように「密室の会話劇」ともなれば、そこには外部からのきっかけによる場面の転換等のわかりやすい状況の変化は生じることがなく、視聴者にとっては「映画を見続けること」が「自分に矢印が向けられることのない会話へ耳をすまし続けること」と重なります。

YouTubeで調べ物をする利便性からはずいぶん遠く離れたもの(少し大変そう)のように思える会話劇ですが、日常の体験ともよく似た味わいがあるとも思えます。

それは喫茶店で考え事をしている時にどこからか聞こえてくる世間話に耳を奪われ、気づくと誰かの人生の物語を思い浮かべながらぼんやりコーヒーを流し込むようなことにも似ているところがあるかもしれません。

つかのま誰かの物語を頭に浮かべたあとで我に返ると、それまで抱えていた自分の考え事が以前とは何か少し違ったものとして捉え直すことができたりする。会話劇にもそのような種類の発見があるような気がしています。

被害者の両親と加害者の両親による対話を描く映画『対峙』

映画『対峙』は、高校で起こった銃乱射事件の被害者の親と加害者の親が直接会って語り合う場面を描いた会話劇です。「従来の刑事司法が国家対加害者であるのに対して、被害者と加害者が直接問題点を見つめ直す取り組み」*1である「修復的司法」を題材にしています。ほぼ全編が舞台となる教会の一室での4人による会話のみで進行し、その対話の始まりから終わりまでのすべてを観客は目の当たりにすることになります。

その繊細さと切実さ、立場は違えども双方の人生を一変させた出来事について言葉を重ねていく登場人物たちの緊張感を前にすると、「耳をすます」ではなくもはや「息を殺して見守る」といった感じで観客は画面を見続けることになります。公開直後の作品のため内容については詳しく触れませんが、矢印が向けられることのない誰かの切実な対話がどのように始まり、終わるのか。そして私たちにどのように届くのか。

会話劇という手法の意義自体も改めて感じることのできるとても印象的な映画作品です。機会がありましたらぜひ劇場で耳をすましてみてはいかがでしょうか。(了)

*1:『対峙』パンフレット(2023年)より

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