ドリームムービー通信をいつもお読みいただきありがとうございます。
スタッフのフジムラです。
先週のメールマガジンでは当社で制作に携わる映像コンテンツと現代アートにおける「タイポロジー(類型学)」について書かせていただきました。
今週からは私たちの日常やビジネスの周りにも遠からず関係をしている現代アートを紹介してまいります。
現代アートといえば最先端の視覚表現を思い描く方も多くいらっしゃるかもしれませんが、1990年代からこの30年の動向を踏まえれば社会に関わっていく実践、社会課題の発見や取り組みという側面を中心的なものとして考えることが出来ます。
いわゆる写真や絵画や彫刻、映像といった表現(媒体)がアート作品を成立させるのではなく、社会的な問題を取り扱ったプロジェクトやワークショップがアート・プロジェクトやアート・アクティヴィティとして現代アートの国際展で中心的な役割の担い手となっています。
今回はその中から「ワークショップ」について取り上げます。
「ワークショップ」この言葉は現代アートの場面だけではなく、皆様のビジネスの場面や地域コミュニティなどでも慣れ親しんだものだと思われます。
参加型や体験型の講座、協働としての勉強会…、少しずつニュアンスを変えて様々な場面で活用されているワークショップという手法。
では、それは一体どこからやってきたものなのでしょうか。
ワークショップという言葉に元々あった意味は「作業場」、「(小規模な)工場」ですが、現在私たちが用いている「知識や経験を共有しながらグループで特定の主題についての議論や実践を行う」といった意味合いは、手元の辞書によれば初出例が1937年でその始まりについては諸説あるようですが、その一つには演劇や舞台芸術分野における教育での活用があったとのことです。
現代アートにおけるワークショップ形式の普及、それを参照した「まちづくり」等の地域社会でのワークショップの活用を考えるときに、その演劇や舞台芸術の分野で育まれたワークショップからの影響はとても大きなものがあります。
今回のメルマガでは現代のワークショップの重要な参照点となったブラジル出身の劇演出家アウグスト・ボアール(1931-2009)演劇のワークショップについて紹介してまいります。
*イラスト:Takeshi Fujimura
1990年代以降の現代アートで大きな流れとなったワークショップを含む参加型アート、観客を作品に対する能動的な参加者として取り込むような活動には1950年代から1970年代のアートへの直接的な参照があることが指摘されていますが、その中のひとつにアウグスト・ボアールがラテンアメリカで行った民衆演劇の実践と手法が挙げられます。
ボアールは演劇を専門家のものではなく農民や労働者たちを参加者として、演劇的な振る舞いをツールとすることにより、社会的に抑圧された立場からの解放を促す活動を行いました。
その多くの手法は『被抑圧者の演劇』と題した一冊の本にまとめられ、現在25以上の言語で翻訳されています。
そのタイトルから気付かれる方もいるかもしれませんが、『被抑圧者の演劇』は民衆の識字教育を行ったブラジル出身の教育学者パウロ・フレイレの著作『被抑圧者の教育学』の姉妹編としてラテンアメリカの民衆運動を支える存在になりました。
ボアールの演劇ワークショップには、参加者が提示した解決方法の見当たらない政治的・社会的な問題についての寸劇を参加者全員による討論で修正を繰り返し演劇上での解決を実現する「フォーラム・シアター(討論劇)」や、劇場の外の様々な場面でそこに居合わせた人々が気づかぬうちに社会的なテーマを含んだ演劇の参加者として巻き込まれていく「見えない演劇」などがあります。
「見えない演劇」は現代アートのパフォーマンスや手法としてある種のスタンダードになっていますし、「フォーラム・シアター」についても労働者演劇として直接的な意味合いで現在も使われているだけではなく、参加者への能動的な関わりを必要とする現代のワークショップやロールプレイの雛形としてもその影響を見て取ることが出来るのではないでしょうか。
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このような事例を踏まえると昨今の現代アートの担う役割がより鮮明に現れてくるのかと思います。
細分化されたジャンルや表現方法を越えて社会的な問題を取り扱う形式としての現代アート。
それは社会課題の解決に取り組むという立場のビジネスからも決して遠からぬ存在と言えるのかもしれません。
そのような視点から今後の現代アートの動向に注目されてみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回以降は社会課題の発見への手掛かりとして現代アートの展覧会を紹介してまいります。
どうぞよろしくお願い致します。
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