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「映像のミエカタDIY #28:サッカーを『競技』から『物語』へと捉え直す (4)」【ドリームムービー通信:266号】


「映像のミエカタDIY」は当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。前回に引き続き今回も「サッカーを『競技』から『物語』へと捉え直す (4)」と題して、サッカーについてのドキュメンタリー表現を紹介します。

前回は現在開催中の「2023 FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド」に合わせて、大会に参加する女子代表チーム”なでしこジャパン”を追いかけた日本サッカー協会の映像コンテンツ「TEAM CAM」に触れましが、今回は先の週末から新シーズンが開幕した、現在世界最高峰とされるイングランド・プレミアリーグを舞台としたドキュメンタリーを紹介いたします。

プレミアリーグと映像表現
イングランドではサッカーの国内リーグは1888年に開始されますが、1992年に新たに上位リーグを創設する形でプレミアリーグが誕生しました。その試合中継の映像のクオリティは圧倒的で、世界中で視聴される映像コンテンツとなっています。放映権をめぐるビジネスがリーグ運営の成功、そして所属チームの発展の大きな鍵を握るという意味でも、プレミアリーグはその他の各国リーグの追随を許さない地位を築いています。

2016年にはRobin Brand Consultants社によるリブランディングが行われ、ロゴ等のデザインもDesignStudio社により一新されました。

これは映像表現においてもとても大きな出来事で、中継映像からプレミアリーグの所有するYouTubeチャンネルにまで、さまざまなビジュアルが通底したコンセプトのもとに制作され、スポーツコンテンツとしてだけではなく、ある種のデザインコンテンツとしても、完成度の高いところへ到達した感があります。

毎シーズン変更される試合中継の点数や残り時間の表示などのビジュアルデザインも毎回新鮮でありつつも、プレミアリーグのブランドとしての一貫性は保たれていることも興味深く、世界各国の様々なスポーツ中継のビジュアルデザインにも大きな影響を与えていると言われています。

プレミアリーグとAmazonが制作するドキュメンタリーシリーズ『ALL OR NOTHING』
Amazonが制作する濃厚なドキュメンタリーシリーズ『ALL OR NOTHING』はサッカーを「競技」ではなく「物語」として捉え直す映像コンテンツの筆頭にあげられるでしょう。その『ALL OR NOTHING』でも、プレミアリーグから3つのクラブチームが取り上げられています。


2018年にはマンチェスター・シティ、2020年にはトッテナム・ホットスパー、そして昨年2022年には大変注目を集めたアーセナルのドキュメンタリーが制作されました。

アーセナル版『ALL OR NOTHING』については、ドキュメンタリーが現実のチームや監督への見方を変えるような驚きがあり、それがチームへの世界中からの注目を高めることにもつながりました。

また『ALL OR NOTHING』シリーズでありませんが、今年もAmazonによるプレミアリーグのクラブを取り上げたドキュメンタリーコンテンツが公開されています。

近年サウジアラビアを中心とした資本グループがオーナーとなり、躍進を続けるニューカッスル・ユナイテッドを追いかけた全4回のドキュメンタリーシリーズです。今回のメルマガではこの作品を中心に紹介するつもりでしたが、大変残念なことに現時点(2023年8月15日)では日本からの視聴は出来ません。今後の公開を願うばかりです。

クラブが制作するドキュメンタリー
最後にプレミアリーグに参加するクラブチームが独自に制作しているドキュメンタリーをご紹介します。

昨年の『ALL OR NOTHING』で注目を集めたアーセナルがなんとクラブ制作による本格的なドキュメンタリー作品を公開しています。『BACK HOME』というタイトルの2本のドキュメンタリーでフォーカスされているのはクラブ生え抜きの選手としてサポーターに愛されたジャック・ウィルシャー。

2008年にはクラブ史上最年少(16歳と256日)でのプレミアリーグ出場や、イングランド代表としての活躍など、輝かしいキャリアの一方で度重なる怪我の影響もあり、2022年に若くして引退を余儀なくされたジャック・ウィルシャーのユースチームの指導者としてのセカンドキャリアのスタートシーズンを追いかけたドキュメンタリーです。


トップチームのドキュメンタリーとして成功した『ALL OR NOTHING』の路線を踏襲するのではなく、クラブが大切に育てた選手のセカンドキャリア(ユースチームの指導者)を取り上げたことに、アーセナルがクラブとして大切にするものが見事に表現されているようにも思えて、とても強い印象を受けました。

なお、アーセナルは女子チームのドキュメンタリーコンテンツも近日の公開を予定しているとのこと。クラブチームが映像を自前で制作してSNSで発信することが当たり前になった時代に、「クラブは映像で何を表現するのか」や「『競技』を『物語』として表現する」ことについて意識的な取り組みを見せるアーセナルの映像コンテンツには今後も要注目です。

今回はサッカーのイングランド・プレミアリーグに関連するドキュメンタリーや映像について紹介しました。
スポーツと映像やデザインの関係や、映像による物語化を考える上でも、プレミアリーグやその参加クラブから発信される様々な映像に注目してはいかがでしょうか。
(了)

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