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「映像ミエカタDIY #34:ふたたび作り始める人々(2)」【ドリームムービー通信:291号】

「映像ミエカタDIY」は当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。今週も「ふたたび作り始める人々」と題して、先週のアキ・カウリスマス監督に引き続き長編作品制作から遠ざかっていたスペインの映画監督ビクトル・エリセの新作『瞳をとじて』を取り上げます。

寡作の映画作家による31年ぶりの長編映画
ビクトル・エリセはカウリスマキのように引退を宣言していたわけではありません。しかし寡作の映画作家として知られるエリセは、長編映画については『ミツバチのささやき』(1973年)、『エル・スール』(1982年)、そして長編ドキュメンタリー作品『マルメロの陽光』(1992年)以降は作品の発表がなく、2023年のカンヌ映画祭で発表された『瞳をとじて』(2023年)が31年ぶりの作品(長編劇映画としては『エル・スール』以来41年ぶり)になりました。本作は日本でもこの2/9より公開されて大きな注目を集めています。

『瞳をとじて』

1985年、伝説のミニシアター“シネ・ヴィヴァン・六本木”で記録的な動員を打ち立て社会現象を巻き起こし、今もなおタイムレスな名作として多くの映画ファンの「人生ベスト」に選ばれる『ミツバチのささやき』のビクトル・エリセ監督が、第76回カンヌ国際映画祭で31年ぶりの長編新作を発表。世界が騒然、そして歓喜する声に包まれた。長い沈黙を破り描かれるのは元映画監督と、謎の失踪を遂げたかつての人気俳優ふたりの、記憶をめぐる 【人生】と【映画】の物語。
『ミツバチのささやき』で見出された当時子役のアナ・トレントが50年ぶりに同じく“アナ”の名前を持つ女性を演じることも話題となっている。
これまでの不在を微塵も感じさせない詩情豊かに綴られるワンシーン・ワンカット、そしてラストに待ち受ける映画の始まりと未来を繋ぐ、圧倒的映画体験。ビクトル・エリセのまなざしは今、私たちに向けられる―—。(youtube公式予告動画キャプションより)

映画公開から日も浅いため、ここでは内容の詳細に立ち入ることはしませんが、ある場面で文字通りかつての映画作品の光に照らされて浮かび上がる人々の姿の美しさがとても印象的でした。

それは登場人物たちだけではなく、31年ぶりの長編映画に取り組んだビクトル・エリセ、そしていままさに上映される映画の光に照らされている観客をも含むように「人々の人生が映画とともにあること」を映像上で見事に表現しているようでもありました。

昨年メルマガで紹介したスピルバーグ監督作品『フェイブルマンズ』は自伝的な物語の中で映画と人生が分け隔てることなく存在すること、映像が捉え残してしまうことの美しさや残酷さを描いていました。『瞳をとじて』にもそれに通ずるものを感じますが、『フェイブルマンズ』が映画作家を志す若者の物語として未来を求める作品だとするならば、元映画監督の物語である『瞳をとじて』は人生と映画について、その過去との向き合い方として描かれていると考えられるかもしれません。

日本で愛され続ける『ミツバチのささやき』

寡作であるビクトル・エリセの新作に対する日本国内での大きな注目(公式サイトに寄せられたコメント数々!)は、これまでの作品が日本で熱狂的に受け入れられてきたかを物語るもではないでしょうか。

1985年2月に12年ものタイムラグをもって日本で公開された『ミツバチのささやき』は大きな反響を呼び、その年の暮れには『エル・スール』も公開されるなど、当時の「ミニシアター」文化を代表する作品となったそうです。

私自身の『ミツバチのささやき』との出会いは国内公開から20年ほど経った00年代前半の大学の授業でのこと、芸術文化におけるホラー/テラーの表象についての講義内での上映でした。こういったことも日本国内において様々な形で『ミツバチのささやき』が大切な作品として受け止められてきたことを表す一例と言えるかもしれません。

物語と視聴体験が重なる映画
映画が人々とともにあり、映画体験がその人生に影響を与える。それは最新作『瞳をとじて』だけでなく、『ミツバチのささやき』が描いていたことでもあります。
『ミツバチのささやき』は1940年代のスペインのある村で開かれた上映会にて1931年の映画『フランケンシュタイン』と出会ってしまった主人公の少女アナの体験が物語の中心になっています。

『瞳をとじて』にはその少女アナを演じたアナ・トレントが同名の女性役で出演しており、『ミツバチのささやき』を観た人には聞き覚えのあるセリフを口にするという演出があります。そこにあるのは長い間作品を待っていた観客への目配せというより、その場面に立ち会った観客がそれぞれの「映画と人生」を思い浮かべることを促すスイッチなのかもしれません。

50年の時を経たアナの姿を見つめている時に、それと同時に「映画を観ていること」を強く意識することになる。そのような構造が、169分という時間を忘れさせるような素晴らしい物語の一部として機能していることも驚くべきことです。

今回の新作公開に合わせて『ミツバチのささやき』と『エル・スール』も改めて劇場にて上映されています。
ぜひこの機会にビクトル・エリセ作品を劇場で体験してみてはいかがでしょうか。映画を劇場で観ることの素晴らしさを感じさせてくれるはずです。(了)

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