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「映像のミエカタDIY #23:スピルバーグ監督作品『フェイブルマンズ』の映像レッスン」【ドリームムービー通信:250号】


「映像のミエカタDIY」は、当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近な素材を取り上げながら、改めてその面白さを確認していくシリーズです。今回は「スピルバーグ監督作品『フェイブルマンズ』の映像レッスン」と題して、現在公開中のスティーブン・スピルバーグ監督最新作である『フェイブルマンズ』を紹介いたします。

2018年のアルフォンソ・キュアロン監督作品『ROMA/ローマ』以降、キャリアを築いた映画監督による自身の少年期等の自伝的な要素を参照した映画作品への取り組みが多く見られるようになりました。スピルバーグの自伝的な映画『フェイブルマンズ』もシンプルにそのような流れに位置付けて語ることができる作品です。

しかしその一方で、映画に魅了されて幼い頃から映画制作を行う主人公とその家族が人生の時々で、映画表現や映像芸術の特性そのものについてのある種のレッスン(もしくは洗礼や教訓のようなもの)を含む出来事を経験しながら物語が進行するという特徴的な側面を持った映画作品でもあります。

今回はそのような「レッスン」から個人的に印象的だったものを2つほど取り上げます。

レッスン1:映画には科学と芸術の2つの側面がある
物語の冒頭で主人公の少年が両親と一緒に初めて映画を見るために劇場へと足を運びます。そこで両親それぞれが少年に語る映画についての説明が印象的です。

技術者である父は「映画は1秒を24枚の写真で記録したものであること」、そして「人間の目による認識可能な速度が1/15秒であること」で映画が成立することを話し、ピアノ奏者である母は「映画は夢の表現」と語ります。

これらは映画に不可欠な科学と芸術の両面を端的に表す言葉であると同時に、創成期の映画にはマジック/魔術(当時はある種の科学としての認識も存在した)や手品を題材にしたものが多く存在したことを思い出させるものでもあります。

その後の場面でも映画や映像表現の特性についての言及がたくさん登場しています。例えば、友人を巻き込んで撮影した戦争映画の映像が「ニセモノのように思えてしまう」ために編集時に光学的な技術を加えることで現実感を演出したエピーソード。

そして、キャンプの際に美しく踊る母親を目の当たりにした家族から撮影を提案されるも、「カメラでの撮影は暗すぎて無理だ」と主人公が断ったエピソード(その後、車のライトを点灯させて美しい逆光の中で撮影をする)には、映像が表現として成立する時に何が起きているのか、そしてその為に何が必要なのかを端的に紹介するようなところがあります。

レッスン2:目で見た光景と映し出された光景の違い/映像の中に見つけるもの
人間がその目で認識した光景と、それをカメラレンズに置き換えて撮影された光景は完全に一致しない。そういった写真や映像表現の前提を思い浮かべた時に、「レッスン1」で紹介したエピソードは肉眼で認識した美しさを、カメラレンズを通した時にどのような方法でそれに近づけていくのかというアプローチであったとも言えるでしょう(ex.肉眼では見える暗がりの対象もカメラで撮影するためには照明が必要になる)。

その一方で、肉眼では認識されていなかったものが光学的に記録された映像には「映ってしまう/映り込んでしまう」ことがあります。その時は気づかなかった事象に対して映像を通して触れることが可能になる。そういったことについて言及したエピソードが劇中には存在しています。

家族で赴いたキャンプでの撮影されたフィルムを編集する中で、主人公は撮影時には意識することのなかった、遠くに映り込んでいた母親の姿に気がつきます。そこには夫(主人公の父)以外の男性に想いを寄せた母親のささやかな仕草が映し出されていたのです。

劇中で描かれる、映像の中に自分の知らなかった事実を「発見」してしまったことで酷く動揺する主人公と、主人公が編集したそれらの映像を見せられた際の母親の膝から崩れ落ちる姿には、映像の持つ力を思い知らされるものがあります。

息子としては「受け入れがたい事実」でありながらも、映り込んでいた母親の映像をまとめ上げた主人公の「カメラレンズで記録された光景の美しさ」に対する感受性や、自分が自然な気持ちを表現する姿をたまたま映り込んだ映像の中に「発見」して自身の心のありようを否応なく確認することになる母親の姿を描くことで、カメラレンズによって映し出された映像の特性と、そこに美しさや本質を見てしまう人間の性質のようなものが見事に表現されています。

今回は「レッスン」としてで映画や映像そのものについて改めて考えるべきポイント2つ挙げましたが、『フェイブルマンズ』が素晴らしいのは監督自身の自伝的物語にそのようなある種「映画/映像論」とでも言うべきものが、見事に溶け込んでいるところにあると思います。
映画に魅せられたスピルバーグ監督の物語、ぜひ劇場でお楽しみいただければと思います。

なお現在、全国の映画館で展開されている名作上映プログラム『午前十時の映画祭』では『ジュラシック・パーク』(公開30周年!)が4K映像で上映されています。この機会にジョン・ウィリアムズの素晴らしいテーマ曲も含めてスピルバーグ監督による極上の映画表現を改めて堪能してはいかかがでしょうか?

(了)

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