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「映像のミエカタDIY #08:自然な会話と不自然な会話(後編)」【ドリームムービー通信:186号】


「映像のミエカタDIY」は、当たり前のものとして受け取っている映像の効果について、身近なものを素材として取り上げながら、改めてその面白さを確認していくコンテンツです。

先週の#07、そして今週の#08では「自然な会話と不自然な会話」と題し、映像において人々の会話の場面がどのように表現されているのかを取り上げています。先週は一般的な会話場面の映像表現と、それとは対照的である小津安二郎の映画作品の会話場面におけるワンショットの不自然さと魅力についてご紹介しました。

今週はジム・ジャームッシュ監督作品における会話の場面に注目し、その独特な表現がいかに一般的な会話場面の表現と異なる魅力を作り上げているのかご紹介します。

会話場面でカメラが捉えているもの
まずは一般的な会話の場面の撮影表現について考えてみましょう。2人が向かい合い会話をしている状況を撮影する場合は、先週取り上げたように話者1人が映るワンショットが中心になってきます。小津安二郎作品における「不自然な」ワンショットも、それがいかに独特な撮影方法によるアプローチであるとしても同様のことが言えます。

小津作品においても会話場面で優先的に伝えるべきが「誰が何を話すのか」であるという前提は共有されており、「不自然な」ワンショットの連なりで表現されるのはあくまでも話者が中心となります。

この前提が当てはまらない会話場面。今週ご紹介するジム・ジャームッシュの諸作には一貫してそういったものを見出すことが可能です。

ジム・ジャームッシュとは
ジム・ジャームッシュは代表作『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のヒット以降多くの作品が日本でもそれほど時差なく上映され続けており、30年以上国内でも注目され続けている映画監督です。今年2021年は国内で大規模なレトロスペクティブが開かれており、作品内での日本映画や日本文化への言及や、工藤夕貴、永瀬正敏両氏の起用された作品等、この機会に改めてジャームッシュ映画を親しく感じた方も多いのではないでしょうか。

ジム・ジャームッシュはひと作品ごとに多種多様なスタイルを用いて映画を作り続けていますが、一方で多くの作品においてアウトサイダーや旅人、そして出自の異なる人々の出会いといった共通のモチーフを扱い続けています。今回取り上げる会話場面の特徴も、向かい合い続けるそれらのモチーフに関係があるものだと考えています。

ジャームッシュ作品の会話場面で中心に据えられるもの
前述したようにジャームッシュの映画における会話場面は、話者を中心とした一般的なものとは大きく隔たる特徴があり、それゆえ撮影方法も自ずと違ったものになります。

言語が違うもの同士、アウトサイダーとの出会いといった出来事を扱うジャームッシュ映画の会話場面では、互いに発する言葉は見知った者同士のコミニュケーションツールとして物語の進行装置のようなものではなく、理解し難い他者と関わり合いながら生きることそのものを示すような「ぎこちなさ」が常に付き纏うものとして描かれています。

そういった「ぎこちなさ」は、ワンショットで話者を取り上げる表現方法では伝え漏れてしまう類いのものなのかもしれません。ジャームッシュ映画の会話場面では、話者のワンショットが用いられることが少なく、話者とその言葉に耳を傾ける人物が一緒に画面に収められる場合が多数を占めています。

つまりジャームッシュ映画の会話の場面では「誰が何を話すのか」ではなく、「話された言葉がどのように受け取られるのか」が場面の中心として設定することで、「ぎこちなさ」にアプローチしているのです。

話者を中心に据えた時に排除されるもの
ジャームッシュ映画のこのような特徴を持つ会話の場面を見ていると、話者を中心にした映像表現が「話された言葉がどのように受け取られるのか」をいかに見えなくしてしまっているのか。そのことについて改めて考えさせられます。

今まさに言葉を向けている相手がどのよう自分の言葉を聞いているのか。私たちが実生活で他者との会話をする場面で心を配るのは、言葉を発する自分の顔(円滑なコミュニケーションを成立させるために話者の表情は重要ですが)ではなく、自分の言葉に耳を傾ける相手の表情ではないでしょうか。

相手に自分の言わんとすることがどのように伝わっているのか(伝わっていないのか)。私たちはそれを相手の返答ではじめて知るわけではなく、自分の言葉を聞いている相手の表情から何かしら感じている。話者中心のワンショット映像ではそのようなことが省力されてしまう傾向にあります。

コント映像とジャームッシュ映画
このような「言葉に耳を傾ける相手の表情」を意識した映像表現として思い浮かぶのがコントや漫才といったお笑いの映像です。コンビの芸人がコントや漫才を行う場合は映像には常に2人が映し出されており、片方の発語とそれを聞きながら反応をする相方の表情や行動といった2人の所作どちらもが大切であることを意識した映像表現を見て取ることができます。

ジャームッシュのオムニバス映画『コーヒー&シガレッツ』はコーヒーとタバコを囲みながらの会話劇がいくつも収められていますが、ジャームッシュの会話の場面についての取り組みからすれば、その映像の表現がコントのそれとよく似たスタイルであるのはあながち偶然とは言えないのかもしれません。

今回は会話の場面の映像表現について、ジム・ジャームッシュの映画に触れながらご紹介致しました。
ビジネス動画では「話者のワンショット」が多く用いられ「何を話すのか」が映像表現の主たるものとして扱われる傾向にあり、ジャームッシュ映画のような「話された言葉がどのように受け取られるのか」を意識する映像表現とは距離があると感じる向きもあるかもしれません。

しかし、コントの映像表現とジャームッシュ映画の共通点を考えると、そこにはより身近なものとして動画制作の参考に出来る要素があるのではないでしょうか。

冒頭で申し上げました通り、現在もなお国内ではレトロスペクティブ上映が催されています。この機会にジャームッシュの映画の独特な表現を体験してみてはいかがでしょうか?

「映像のミエカタDIY」では今後も日常的なモチーフから映像の効果、そして映像表現と方法の組み合わせについても考えていきたいと思っています。お読みいただく皆さまの映像の取り組みの参考になりますと幸いです。

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