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現代アートの国際展で社会の課題と出会う旅へ :ドクメンタ(後編)【ドリームムービー通信:第125号】

【ドリームムービー通信】をいつもお読みいただきありがとうございます。

スタッフのフジムラです。

さて、今週のドリームムービー通信では先週に引き続き「現代アートの国際展で社会の課題と出会う旅へ」と題しまして、ドイツのカッセルで開かれた現代アートの国際展「ドクメンタ14」(https://www.documenta14.de/en/)を取り上げます。

2017年に行われたドクメンタ14は「アテネに学べ」というテーマを掲げて、ギリシアも含めた南欧の金融危機、それに伴う形で起きた民主主義運動や移民の問題等の社会の課題と向き合う姿勢を打ち出しました。

その中でも実際に現地で展示を見る中で、東アジアからの来訪者としての私自身の立場も含めて、移民や人々の移動について直接的・間接的に言及した作品から強い印象を受けました。

「社会課題やモチーフに対して、どのような立場と手段を以って形を与えるのか。」

それは現代アートに限らず、当社のような映像制作も含めて様々な仕事において、そして毎日の生活の中でも常に問われる事柄かと思われます。

そのような問いについて考えを巡らす時に、現代アートの展覧会で出会う取り組みの独自性、繊細さと誠実さ、そして失敗は大きなヒントとなるはずです。

今回はドクメンタ14から2つの作品、アテネ出身の作家Zafos Xagorarisの『The Welcoming Gate(歓迎のゲート)』とナイジェリア出身でアメリカを拠点に活動するOlu Oguibeによる『Monument for strangers and refugees(旅人と難民のための記念碑)』を取り上げて、現代アートの作品が社会的な課題に対してどのように向き合うのか、その一端をご紹介いたします。


写真:”The Welcoming Gate” Zafos Xagoraris ドクメンタ14展示風景より(筆者撮影)

アテネ出身の作家Zafos Xagorarisの『The Welcoming Gate(歓迎のゲート)』は、カッセル中央駅の使われていない半地下のプラットホームから線路を歩き進むと、観客がやがて「XAIPETE !(ギリシア語で”こんにちは”の意)」という看板と聞き慣れない穏やかな音楽に出会うという作品です。

作品の発想の起点には、第一次大戦中にドイツの捕虜となったギリシア兵たちのエピソードが存在しています。

ギリシア兵は捕虜として過ごした3年もの間に、街を歩き、自分たちの新聞を発行し、ギリシア音楽の歴史上初めての録音物となったレコードを制作するなど、ゲストとしての自由をドイツ政府から与えられていたとされています。

暗い地下の線路の上を歩くという日常から離れた不安定な行動から、歓迎を示すゲートと音楽へと辿りつくという体験は、移民や人々の移動の問題について観客自身を<ギリシア兵>や<現代の移民>といった当事者と重ね合わせることを可能とさせるとても優れた仕組みでした。

そのような体験をしながら、私自身も含めて観客たちは自分自身が今まさに見知らぬ土地を訪れていることや、そこには常に「歓迎」や「拒絶」といった出来事が否応なく付随することを意識させられることになりました。


写真: Monument for strangers and refugees, Olu Oguibe ドクメンタ14展示風景より(筆者撮影)

ナイジェリア出身でアメリカを拠点に活動するOlu Oguibeによる『Monument for strangers and refugees(よそものや難民のための記念碑)』は、カッセルの中心にある広場(The Königsplatz)に設置された作品で、“I was a stranger and you took me in”というマタイの福音書(25:35)を参照した語句がトルコ語、アラビア語、ドイツ語、英語の4つの異なる言語で刻まれています。

おそらくそれぞれの言語が面している方向には意味があり、例えばトルコ語が刻まれている面はNordstadt地区の方向に向けられており、そこにはトルコ出身の移民が多く暮らしています。

このモニュメントは心細い旅行者(a stranger)である私にとっては、『The Welcoming Gate(歓迎のゲート)』のように移動する人々としての当事者感覚を意識させられるものでした。

しかし、それと同時にこのモニュメントの存在感は強烈で、まるで映画「2001年宇宙への旅」のモノリスのように、以前ドクメンタに訪れた際とは広場自体の雰囲気を一変させたような印象を持ちました。

立場が変わればものの見え方は変わるものですが、モニュメントに対する違和の感覚と移民や来訪者の存在とが重なり合う時に、カッセルに長く住む人々は一体どのように感じたのか?
そのようなことも考えさせられる作品でした。

このモニュメントについての後日談(https://www.artforum.com/news/olu-oguibe-s-documenta-obelisk-returns-to-kassel-79489)として、会期終了後にカッセル市が買い取る形で広場に恒久展示される予定が、極右的な立場の政治家らによる圧力で一度解体を余儀なくされるといったことがありました。

そして、設置への妥協案として、広場から少し離れた通りに移設することを作家が受け入れることによって2019年に再設置されたとのことです。

野外彫刻の恒久展示について住民による受け入れの問題が起こること自体は珍しいことではありませんが、今回のケースについては現代社会の抱える課題と作品の影響力について考えさせられる出来事であったと言えるのではないでしょうか。

正解や不正解があるのではなく、いまだ認識に及んでいない社会の抱える問題をアートの工夫や手法により形を与えて、認識可能なものにすること。

観客へ問題の当事者としての思考を促し、そこでの議論を許容すること。現代アートの国際展を訪れると、アートがそのような社会的なプラットフォームとしての可能性を有していることを肌で実感することが出来ます。

ドクメンタ15は2022年の6月に開催予定ですが、現在国内では現代アートの国際展である横浜トリエンナーレ(https://www.yokohamatriennale.jp/2020/)が開催されています。

ぜひご機会ありましたら、現代アートの国際展を訪れて社会課題とのアートならではの出会いの体験をされてみてはいかがでしょうか?

最後までお読みいただきありがとうございました。
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